CDジャーナルムック<br> 渋谷百軒店ブラック・ホーク伝説

  • ポイントキャンペーン

CDジャーナルムック
渋谷百軒店ブラック・ホーク伝説

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ B5変判/ページ数 159p/高さ 26cm
  • 商品コード 9784861710353
  • NDC分類 673.9
  • Cコード C9473

出版社内容情報

ブラック・ホークとは…
●1960年代の末になって、東京の街にはぽつりぽつりとロック喫茶ができはじめた。新宿の「ソウル・イート」、吉祥寺の「ビバップ」「赤毛とソバカス」など、数は少なかったが、大卒の初任給が3万円ほどで、レコード(アルバム)が2500円前後だった当時、英米のロックの最新盤が聴ける店は貴重な存在だった。高円寺の「ムーヴィン」も、当初はフリー・ジャズの店だったが、69年頃にロック喫茶に衣替えした。
●同じようにして、ジャズからロックへという転身を歩んだのが、渋谷・百軒店にあった「ブラック・ホーク」である。ブラック・ホークがロック主体になったのもやはり69年頃だが、ムーヴィンの主だった和田博巳は「ブラック・ホークをお手本にした」と言っているから、脱ジャズは少し早かったのだろう。
●ブラック・ホークは、もともとは「DIG渋谷店」だった。DIGはカメラマンでもある中平穂積が新宿二幸裏で始めた本格派のジャズ喫茶で、その2店舗目、渋谷支店がDIG渋谷店だった。古時計などのアンティーク類が多数飾られた木質のインテリアとかつての名曲喫茶を受け継いだ「私語禁止」がDIGの特徴だったが、それだけでなく時代の先端を行く前衛派のジャズの紹介などについても積極的で、硬派のファンを集めた。
●そのDIG渋谷店で事件が起こったのは、1968年の冬だった。ある夜、ジャズ喫茶の心臓部ともいうべきレコード・コレクションがごっそり盗難にあったのである。オーナーの中平は激怒した。それだけでなく、渋谷という街に愛想をつかした。彼は店を売ることを決意した。それを買ったのが水上義憲で、「ブラック・ホーク」はそれによって誕生した。
●ブラック・ホークは、インテリアやオーディオ装置など、店の什器一切をDIG渋谷店から引き継いだが、それだけではなかった。1965年からDIG渋谷店でレコード係をつとめていた松平維秋(のちロック評論家)も、そのまま新店に移籍した。彼はレコード・コレクションの方向づけなど、いわば企画マンとして店をきりもりしていくことになる。
●百軒店は、60年代初頭から複数のジャズ喫茶が軒を並べた、個性的な一角だった。老舗の「オスカー」をはじめ、「ありんこ」「スイング」「ブルーノート」「SAV」そして「DIG渋谷店」。ここは関東大震災のあとに銀座などの店の臨時営業場所として急造された人工の町だったが、映画館も複数あり、60年代には「映画とジャズを楽しむ町」といった趣が濃かった。70年代に入ると、ライヴ・スペースを持つロック喫茶「BYG」も加わった。
●その中にあって、ブラック・ホークは、きわめてユニークな存在だった。のちになって、店長格だった松平維秋自身が書いている。
「だが六九年からの一〇年ほど、このスペースには特別な空気が満ちていた。世間的な分類では、ブラック・ホークはロック喫茶である。ところがその空気は、ロック喫茶らしさからは外れていて、プレイされる音楽が、席を埋める客たちの体に染み込んでいく光景は、いつも静謐といってよかった。そしてその音楽を他所で、たとえばラジオから聴く、ということはまずないのだった。
 なぜかというと、ブラック・ホークの音楽は、世間の流行に同調することがなかったからだ。ロック=音量主義の七〇年代初頭には、個人レベルのコミュニケイションを重視してアコウスティック路線をとった。西海岸の音楽が一般化するころには、ゴスペル色の濃い南部のロックに力を入れ、シンガー&ソングライターにブームが兆せばイギリスの古謡をうたう人達に光をあてた。ヘソまがりではなく、わずか五〇人で満席のスペースは、つねに専門店的な使命を帯びるべき、という考えからだった。そこでは何年後かに、“幻の名盤”となるレコードが、幻ではなくリアル・タイムで流れつづけた。」(渋谷道玄坂百軒店界隈、85)
●「専門店的な使命」という観点で特筆されるべきことは、この小さなスペースがおそらくは日本ではじめての「ブリティッシュ・トラッド」の紹介を積極的に行ったことだった。70年代の半ばのことである。もともと、ブラック・ホークは鈴木慶一や南佳孝などミュージシャンが多く集まる店だったが、「どんな音楽を提供するか」という面でも、数ある音楽喫茶で群を抜いてユニークな存在だった。「トラッド愛好会」などのグループもここから生まれ、トラッドはここから静かに広まっていった。
●本書は、そんなブラック・ホークが歩んだ足どりをまとめ、本というメディアに定着されたメモリアルとなるものにしたい。

PART1 渋谷百軒店1969-70年代
インタビュー■ブラック・ホークの18年/水上義憲(ブラック・ホーク・オーナー)
再録■渋谷(1960-1982)~渋谷百軒店界隈/矢吹申彦(『東京面白倶楽部』より)
インタビュー■記憶から消えない60年代の百軒店/三野泰一(元「サンジェルマン」オーナー)
エッセイ■百軒店の「手のひらの上」/萩原健太(音楽評論家)

PART2 松平維秋とヒューマン・ソングス
インタビュー■松平君はトラッドへ向かった/水上義憲(ブラック・ホーク・オーナー)
再録■イギリスにどんな“都市の音楽”があったか/松平維秋
再録■トラッドの受け入れられ方/松平維秋
再録■よみがえった古謡/松平維秋
再録■始めに歌ありき/松平維秋
再録■1999年/松平維秋
再録■1971年作の名盤/松平維秋
再録■生暖かい人間味/松平維秋
再録■ザ・バンド/松平維秋
再録■ロックにとって名盤とは何か/松平維秋
再録■終わりの始まり/松平維秋
再録■トーチカ物語/松平維秋
エッセイ■ブラック・ホークからブリティッシュ・トラッド愛好会へ/森 能文(ハイランド・パイパー)
エッセイ■1970年代百軒店のサムシング・イン・ジ・エアー/尾城夏人(自由業)

PART3 この店でしか聴けない音楽
インタビュー■トラッドだけでは客は呼べない/水上義憲(ブラック・ホーク・オーナー)
エッセイ■「ロック喫茶」という発想/和田博巳(ミュージシャン、オーディオ評論家)
エッセイ■ブラック・ホークの気配/市川 陽(TVプロデューサー)
寄せ書き■ブラック・ホークDAYS/新井健文・飯田竹男・伊藤銀次・小川真一・かしぶち哲郎・粕谷雅昭・小西勝・白石和良・菅沼裕・鈴木慶一・鈴木常吉・本田信介・南佳孝・若林敏子・和田博巳

PART4 メッセージが発信される店
インタビュー■時代はロックに背を向けた/水上義憲(ブラック・ホーク・オーナー)
エッセイ■「ブラック・ホークのにおい」/野田高澄(アート・ディレクター)

PART5 99枚のディスク~「ブラックホークの選んだ99枚のレコード」リニューアル版
天辰保文・大江田信・大島豊・小川真一・菅野ヘッケル・浜野サトル・尾城夏人・松平維秋・松永良平
エッセイ■ブラック・ホークとの別れ/船津潔(「タムボリン」オーナー)

最近チェックした商品