内容説明
60年にわたる深遠なる思索を紐解く画期的作品集。現代で最も重要な画家が変貌を繰り返しながら貫く強靱な抵抗のスタイル。初期の“フォト・ペインティング”(1965)から、近年の最重要作品といえるホロコーストを主題とした“ビルケナウ”(2014)、最新ドローイング(2021)までの約140点を、変貌を続けるシリーズを軸に、ドキュメント写真、参考図版を多数駆使しながら、書き下ろしテキストとともに展開。貴重インタビュー、海外重要論考も再録。
目次
ゲルハルト・リヒター:画家にしてイメージメーカー―ゲルハルト・リヒター財団の所蔵品(ディートマー・エルガー)
ビルケナウ以降―ゲルハルト・リヒターの“アブストラクト・ペインティング”における後期様式について(桝田倫広)
「絵画は役に立つのです」―リヒター作品における「もの」と「ビルト」、「複数性」と「真実性」をめぐって(鈴木俊晴)
Plates
フォト・ペインティング(浅沼敬子)
リヒターと社会主義リアリズム(福元崇志)
資本主義リアリズム(桝田倫広)
アトラス(鈴木俊晴)
リヒターと1960年代のマルセル・デュシャンの再評価(中尾拓哉)
カラーチャートとグレイ・ペインティング(鈴木俊晴)〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
98
東京国立近代美術館にてフォト・ペインティング、アブストラクト・ペインティング、グレイの鏡、8枚のガラス、そしてビルケナウを見た。これにより豊島にあるガラスはイメージできた。50年間に及ぶ画家の大作を一堂に見られる機会はそれ程ない。報道写真を用いることで構図を意識的に排除し、絵画として描くことで自らの無意識を暗示的に表出させた。ヨーゼフ・ボイスにアブストラクト・ペインティングを評価され、アクリル板にスキージを用いることで、偶然性を招き入れる。ポーラ美術館ではモネや、ハマスホイの作品と並べて展示されていた。2022/07/31
キムチ
63
だいぶ前、日曜美術館で観た(知った)リヒテルの取り組み。衝撃を受けつつ、本を手にして合間々に見てきたこの2週間・・少しづつ消化が始まったという感覚。今世紀においての独最大の画家リヒテル90歳。ナチス黎明期ドレスデンに生まれ組織に組み入れられたが長じた時点でナチスは消えた。だが後の社会主義体制から逃れるべく西独へ亡命。ガラスペインティング~アブストラクトアート~断片化と全体化。抽象性の内に多様な見え方を模索してきた彼。ケルン大聖堂の市松模様のステンドグラスの奇抜性は度肝を抜く。で自身の絵画がホロコースト2022/11/20
PEN-F
45
ゲルハルト・リヒター展図録。このぐっちゃぐちゃで抽象的すぎる感覚が堪らない。彼が最初からこういう表現方法だったならここまで好きにはならなかったような気もする。普通に人物画を描いても圧倒的で、色んな思考を経て、悩んだで悩み抜いた末に辿り着いた境地であり表現方法だと思うと見れば見るほどこの独特の世界観に惹き込まれる。“ビルケナウ”という到達点にただただ圧倒されました。2022/07/30
じーにあす
25
「それは作為を排するにはいい技法なんです。何が起きるか計算できないということはわかっていながら、しかし私は無意識にそれを予感しているという、心地のよい、どっちつかずの中間的な状況なのです」ゲルハルト・リヒター展の図録。掲載されているビルケナウやアブストラクト・ペインティングをボーっと見ていて、こういった表現が自分は好きなのだなと思う。実際に実物を見て圧巻だった。写真に絵の具をぶち撒けただけ、キャンパスに絵の具を垂らして削っただけと思うかもしれないが、人を惹きつけるものがあると思うのよね。創作したくなる。2024/05/12
風に吹かれて
20
ゲルハルト・リヒターは、イメージ・メイカーと呼ばれているそうだ。フォット・ペインティング、カラー・チャート、グレイ・ペインティング、アブストラクト・ペインティングなど、様々な手法を用いてイメージを作品として表現する。作品はひとつのイメージを定着させるものではなく、作品自体が様々なイメージを表出している。 作品を音楽にたとえて「音がうまく組み合わされていると、響きがよく、あるいは正しく聴こえ、そしてまた理解可能なものになって、何かを伝えることができる」というリヒターの言葉が紹介されているが、 →2023/06/26