出版社内容情報
コーマック・マッカーシー[コーマックマッカーシー]
著・文・その他
山口和彦[ヤマグチカズヒコ]
翻訳
内容説明
権力や法の支配を避け、社会の末端で暴力に晒されながらも生きる者たちの姿を描き出す。1930年代のテネシー州、アパラチア山脈南部を舞台とした、交差する三人の物語。現代アメリカ文学を代表する作家のデビュー作初訳。
著者等紹介
マッカーシー,コーマック[マッカーシー,コーマック] [MacCarthy,Cormac]
1933年、ロードアイランド州プロヴィデンス生まれ。現代アメリカ文学を代表する作家のひとり
山口和彦[ヤマグチカズヒコ]
上智大学文学部英文学科教授。1971年山梨県生まれ。ペンシルヴァニア州立大学大学院博士課程修了(Ph.D.)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヘラジカ
60
アメリカ文学の巨匠コーマック・マッカーシーのデビュー作が遂に邦訳された。後に書かれる美しい傑作群と比するなら、あからさまにフォークナーに影響を受けた文体は筋書きが追いづらく、粗削りで物語性にも乏しい。決して洗練された作品とは言えない。しかし、ここから大作家の歩みが始まったのだと考えると、暴力性に対地する繊細な自然描写や、詩的で高度な文章表現など、後に輝きを放つ才能の片鱗を存分に楽しむことが出来る。最初に読むにはお勧めしないがファンならば是非とも読むべき作品だ。本国で来月発売される新刊が非常に楽しみである。2022/09/12
田中
32
風景描写に詩情がみちあふれた、マッカーシーの才気煥発な処女作を体験する一冊である。たとえば、山腹、靄、雲海、植物、陽光、雨、岩、猫や犬が、何か意図的な思惑がうごめいているように精彩を放つ。自然がもつ荘厳さが眼前に現れてくるようだ。人間社会の営みをストーリー化し、自然界の主体性を神秘的なものとし、一切の世界を俯瞰的に映し併存させていく。後の名作群は、本著に含まれた命題を、より詳細に細部を現し、思想性が膨らんでいったように思う。静かな耐性ある文体で、聖的な箴言を一節に示す。集約する言葉の重みに惹かれるのだ。 2022/11/26
かんやん
29
「隠喩が文体を永遠にする」と語った作家があったものだが、マッカーシーの場合は直喩を多用する。濃密で官能的な自然描写と、その中で行動する人物(時には動物たち)の描写が延々と続く。唯一無二の描写力であって、どれほど具体的であろうと決して映像に還元されることがないのは、この比喩の働きによるのではないのか。物語は重要ではないかのよう背景に退き、背景であった山や川や森が前へ出てくると、それらはもはや超自然の趣きを帯びている。そこを動き回る、名前があるのに老人とか少年と呼ばれる登場人物たちは、どこか神話的だ。2023/08/27
秋 眉雄
16
『老人は溜め池の穴から煙があがっているのを見ると、しばし立ち止まった。威力や絶望を感じる瞬間の激しい血の流れ、制御できない心臓の鼓動を感じた。もはや何もすべきことはなかった。灰のなかの魂は無名のままに失われ、もはや自分の手から離れてしまったのだ。』物事はただそうなるのだし、たまたまそうなっている連なりだということ、しかしそこには途方もない何かがあることを、コーマック・マッカーシーの書く物語から感じます。うまく言葉に出来ませんがそれは例えば、宇宙の成り立ちと同じ意味で、道端の石ころがそこにあるみたいな感じ。2023/07/16
ハルト
12
読了:◎ 情景描写がすばらしかった。自然の美しさに人の内面が重ねられ、語られる。善も悪も呑みこむ自然の壮大な美しさが圧巻。人間の愚かさが、その美しさに対比して描かれているように思えた。コーマック・マッカーシーのデビュー作とのこと。以後の作品の片鱗がたしかに見えた。2023/02/23