内容説明
一瞬だけの、ほんとうのしあわせ―舞台は1930年代のパリ、小鳥売りの老人を交点に、人々は出会い、そして別れる。はかなくせつない余韻を残す幻の名編。
著者等紹介
高井道夫[タカイミチオ]
1948年、東京生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
コジ
31
★★★★★ この物語の主要な登場人物は、小鳥売りの老人、イザベル、マリーの三人と言って過言ではないだろう。そして、この三人の登場人物の中で最も印象に残った人物を一人挙げろと言われたら、間違いなくマリー挙げる。多くの苦悩が人生の大半を占めていたマリーの元に突如訪れた幸福。しかし、マリーはその幸福がいずれ不幸も招き寄せることをかの女は知っていた。「幸福が不幸より優しいとは限らない」運命のいたずらに翻弄されたマリーを語るにこの言葉以上のものはない。切ない、でも仄かに温かみを感じた読後感。2019/07/11
H2A
14
パリのモンスリ公園の周りに住む市井たち、小鳥売りの老人、彼を慕う少年キッド、大学生イザベル、それに非社交的な小売商マリー。孤独な彼女の店に浮浪児が転がり込んだところからささやかな物語が動く。作中いたるところに『幸福』『青春』という語が出てくきて、現実の中に幸福を見出そうという意志が垣間見える。そして甘美さの追及が濾過されて結局は儚さに通じてくる。若書きゆえの舌足らずな面もあるが、美しい小説ではある。作者の伝記的な事実だけで読まれないとすれば惜しいと思わせるぐらいの魅力はあると感じた。2013/12/26
seer78
7
福田和也『奇妙な廃墟』で知った作家。パリでなんてことない日々を送る学生四人。近くの公園で小鳥を売る老人。スラム街に住む少年たち。食料品店のおかみ。プルーストを承けてか、連想に次ぐ連想で起伏に乏しい展開だが、味わいは深い。1920年頃のパリの学生街を舞台に、現在が遠い将来から思い出として見返されるような、清々しい幸福感とやるせない喪失感が合わさった感触をうまく言葉にしている。ある事件が発生するが、たいした中身はない。この青春の文学者が後年ナチに協力し、処刑されるとは、人間とは文学とはよくわからないもんだ。2016/02/12
なめこ
4
決して幸福ではないけどすごく綺麗なはなし。訳文もきれいでやわらかい。『幸福が不幸より優しいとは限らない』ドキリとした。突き放したような書き方をしていて誰が主人公かよくわからないのだけど、この小説のタイトルとしては小鳥売りしかないよなぁと思う。2016/12/31
Acha
4
やられた・・・タイトルがこんなに愛らしいのにおフランスはほんと一筋縄ではいかない。瀟洒なイメージが冷たく思えてあまり深入りせずにきたけど、これは俄然パリに行きたくなってしまう。なんだろう、冷たいどころか手ひどく突っぱねられたような気持にもなる作品なのに憧れが増す。時代を経て少し淡く感じる文章が美しいんだろうな。2014/10/14
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