出版社内容情報
「知る権利」に応えつつ、どう人権に配慮していくか。今、メディアが突きつけられているこの問題に20年前から挑戦してきた新聞社がある。全国でただ一社、「匿名報道」を実践してきた『南海日日新聞』である。
1975年11月に創刊したローカル紙『南海日日新聞』は、わずかな社員と共に試行錯誤を繰り返した末、1986年11月から全面的に匿名報道を基本にした報道を開始した。本書は、「何故匿名報道なのか」を問いながら、人権に配慮しつつも「知る権利」に応える新聞づくりを続けてきたローカル紙の奮闘の記録である。
第一部は、八幡浜市という小さな町で起こった様々な事件がどう報道されてきたのかを伝えることにより、匿名報道の重要性を説く。第二部は「なぜ匿名報道なのか」を著者が同志社大学の新聞学科で行った講演記録と、匿名報道主義を提唱する浅野健一氏(同志社大学社会学部メディア学科教授)の論文を収録、日本の匿名報道の現状を伝える。
○被疑者、刑確定者に 今日から匿名報道に
第一部 匿名報道の記録
○各社の報道姿勢が分かれた「フジ八幡浜店、爆弾脅迫事件」
○権力者の犯罪が問われた「警察幹部不正事件」
○農協職員横領事件
○信金の現金不明事件
○中学生自殺事件
第二部 なぜ匿名報道なのか
○斉間満 講演録「読者の視線に立つ」が匿名への第一歩
○本紙の基本方針 南海日日新聞
○浅野 健一 犯罪報道は変えられるか
○刊行に寄せて 匿名報道主義は今- 浅野 健一
あとがき
本紙は全国の新聞に先駆けて犯罪(刑法犯)報道を1983年から容疑者の呼び捨てを止め「さん付け」の敬称報道を行っていたが、1986年からは容疑者や逮捕された者を匿名にする匿名報道に踏み切った。匿名報道は、当時共同通信記者の浅野健一氏(現同志社大学教授)が提唱していたもので、本紙も「犯人とされた者の弁明を聞くことが出来なく、司法当局の冤罪などの過ちをチェックすることが難しい現状で、人権保護を重視、裁判により犯罪が確立されるまでは犯人とは言えない。また、人は誰でも過ちを犯す存在である」などの考え方に立って報じてきた。こうした本紙の報道姿勢を読者の方により理解をしていただくため、主に1996年に相次いで起きた事件の報道を例にして、我々スタッフが如何なる姿勢と考え方で報じてきたかを記していきたい。いわば本紙の匿名報道の舞台裏とも言うべき連載記事である。(出版に先立つ新聞連載の巻頭文)