内容説明
その男は一人また一人、巧妙に尊い命の灯を吹き消してゆく。だが、ある少女の登場を端に、男は警察から疑いをかけられることに…。寂れた博物館、荒れ果てた屑鉄置場―人々から置き去りにされたロンドンの街角を背景に、冷酷な殺人者が追いつめられる。英国黄金時代の四大女性探偵作家のひとり、アリンガムのシルバー・ダガー賞受賞作品、初の完訳。
著者等紹介
アリンガム,マージェリー[アリンガム,マージェリー][Allingham,Margery]
1904~66。ロンドン生まれ。小説家である両親をもち、幼い頃より創作活動を続けていた。仕事上のパートナーでもあった夫のヤングマン・カターは、ミステリに関する本の装丁家として有名である。初めてのミステリ長編は、The White Cottage Mystery(1927)という犯人あての新聞連載小説である。シリーズものとして探偵役を担うアルバート・キャンピオンが初登場したのは、The Crime at Black Dudley(29)であるが、初期は娯楽作品の色が強かった。その後、作風の変化が生まれ、『幽霊の死』(34)以降、文学性を深め、克明な社会背景が描かれ、人物造型にも優れた作品が創られた
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感想・レビュー
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bapaksejahtera
15
アリンガム作品で「検屍官の領分」に続く読了。本編は上記同様ややコミカルな作品で読み易い。主人公とされる素人探偵の位置づけが不明だが、有閑階級に属する探偵の超人的謎解きではない為、読むのに抵抗がなかった。明朗快活な印象をよそに殺人を続け、被害者の財貨を窃取する殺人鬼が主人公。描かれる殺人は数件だが、実際は10件に及ぶサイコパス。犯人には少年時代から親身に彼を遇する老婆がいる。彼女は夫の残した様々な装飾品を、独りよがりに珍品として展示する。訪れた老婆の親戚の娘とその男友達が話を彩り、男の犯罪の露見までを描く。2024/04/08
翠埜もぐら
15
短編のキャンピオンシリーズは、どちらかと言えばほのぼの形ですが、今作はしょっぱなから暗く寒く。推理小説ではなくクライムサスペンス。序盤から犯人は開示され包囲網は狭まりつつあり、完璧なアリバイ作りに固執した挙句自滅するわけですが、ポリーおばさんと犯人の関係とやり取りがなんか切ない。犯人はサイコパスなので良心の呵責も躊躇もないけれど、ポリーおばさんも多分「愛している」と思い込んでいるものに対する執着だって気づいてないよね。旦那さんの形見の悪趣味なコレクションに抱く気持ちと一緒なのに。それはそれで気持ち悪い。2023/10/24
紅はこべ
15
キャンピオンももう五十代。探偵というより事件の立会人という感じ。金銭のために冷酷に犯罪を重ねる男と、彼に母親代わりの愛情を注ぐ老婦人。犯罪者と彼を愛する者の心理描写が本作の眼目か。犯罪者が拒み続けた愛情が、土壇場で彼を滅ぼすことになるのです。2009/01/24
syachi
4
面白かったなー。視点が変わりつつもある流れにはそっていて、最後には追い詰められた殺人鬼のガタガタな心情が。ただちょっとシンプルにまとめられていてアクの強さとかはあんまりなかったかな。2015/04/04
J・P・フリーマン
3
目的は金。手段は殺人。過去に何度も殺人を犯してきた犯人が今度ばかりは運に見放され、警察に追い詰められていく。とうとうどうしようもなくなって犯人が最後にとった行動が、人間の情にあふれていてよかった。2015/10/19