内容説明
孤独なベストセラー作家のミス・ピムは、女子体育大学で講演をおこなうことになった。純真無垢な学生たちに囲まれて、うららかな日々を過ごすピムは、ある学生を襲った事件を契機に、花園に響く奇妙な不協和音に気づいたのだった…。日常に潜む狂気を丹念に抉るテイの技量が発揮されたミステリ、五十余年の時を経て登場。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
8
邦題の「裁かれる」というのは、内容に則していない。何せ、普通ならもっと早く真相に気づいていなければならない主人公が、ラスト近くで、「私は何もわかっていなかった」と悟るのは、ミステリでは異例と言って良い。そして、事件の真相に気づいた人間はいるが、当の知り得た人物は、真犯人を公的に断罪していない。裁く人間がいないのだから、裁かれる人間もいない。よって、「謎は全て解け、罪人は捕えられる」というお馴染みのラストによるすっきり感がない。 その代わりといっては何だが、人物造形には見所がある。2005/05/05
椿子
8
じっくり味わい深い少女小説という感じでとても良かった。教師たちのあからさまな生徒への評価っぷりに少し疑問だったが。学校の行事や女子寮の生活や食べ物など、どれも興味深く読んだ。私はラウスが結構好きだったんだけど、何であんなに嫌われてたのかしら………わからない。2012/03/15
madhatter
3
殺人そのものに加えて、殺人が起こりうる舞台設定や、背景となる人間関係などにも興味のある向きには楽しめると思う。作中で何気なく、しかし執拗に描写される犯人の人物描写や、ミス・ピムの目から描写される、同性から見た女子校特有の人間関係の微笑ましさが反転する、あのラストシーンの陰鬱さは半端ない。確かに殺人そのものや、手掛かりはショボい。しかし一読すれば、それがメインではないことがよくわかるだろう。2012/02/01
法水
2
原題は『Miss Pym Disposes』、英語のことわざ「Man proposes, God disposes.」に由来すると思われる。にわか心理学者のうえ即席探偵役までこなすハメになる不運な役回りのミス・ピム、かわいそうに、彼女に誰かの運命を決められる資格などないのだ。たとえそれが「犯人」でも。結局、裁きを下すことは神様にしかできないから…。はっきり言って事件が起こるまでは退屈で困るぐらいだったが、終盤の展開に静かな衝撃を受けた。まだうまく消化できてないので、いずれ再読しようと思う。2017/04/23
nashi
2
若い教師ミス・ピムを歓迎する女学生たちには、ひょうきん者や華やかな美少女、クールな優等生に自由奔放なラテン人と様々な個性が与えられている。ミス・ピムならずとも、彼女らに愛着がわくはず。それだけに、結末には胸を抉られる。無邪気であることの残酷さと、罪深い自分を抱えて生きようとすることの清冽さと。2011/05/17