内容説明
「葵」の嫉妬、「小町」の妄執。川村毅が紡ぐたおやかな闇。欧米の近代劇が作り上げていった劇構造とはまるで別個の物語が展開する、それが古典の能であり、そうした非合理性、不合理性を近代劇の枠組みのなかに取り入れようとしたのが三島由紀夫の能楽集の目論みだというのが私の理解の仕方だ。『近代能楽集』の構造は今でも十分新しいが、描かれる風俗、設定はやはり隔世の感を否めない。現代を生きている作家にしか現代は描けない。こうした当たり前の事実にたどり着いて、私は新しい物語という呪縛から解放され、構造としての物語とある程度の和解をみた。
著者等紹介
川村毅[カワムラタケシ]
作家・演出家。1959年東京生まれ。明治大学政治経済学部卒業。1980年、劇団第三エロチカ創立、2002年ティーファクトリーを創立、主宰。1985年度第30回岸田国士戯曲賞を「新宿八犬伝第一巻―犬の誕生―」にて受賞。1990年初演、潤色・演出作品「マクベスという名の男」にて以降、世界各国の国際演劇祭に招かれる。1996年、ACC日米芸術交流プログラムによりニューヨーク滞在。1998年、ニューヨーク大学客員演出家として招かれ、オーディションメンバーにより三島由紀夫作「近代能楽集」英語版を演出。1999年より取り組んでいる「ハムレットクローン」にて2003年ドイツツアーに招かれる。現在、京都造形芸術大学助教授
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