内容説明
学校のレポートにホームレスを取りあげようと、ケリーはいつも図書館で見かける男の人に近づく。その人、ウィームズさんが「ベトナム帰り」だと知ったケリーは、救いの手をさしのべようとするが…。理想をもとめる十五歳の少女の苦悩、少女と父親との対立、いまも残るベトナム戦争の傷跡―。おとなになりかけた少女が直面するさまざまな問題を鋭く描く話題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
detu
30
戦争というものは愚かだ。この話に戦争の血なまぐさい描写は一切出ては来ない。一人のベトナム帰還兵が心を壊してホームレスに身をやつし他人との関わりを頑なに拒絶。ハイスクールに通う主人公は彼と心を通わすことに腐心するもなかなか上手くいかず苛立ちを募らせる。主人公の父親もベトナム帰還兵。弁護士として大成しホームレスを断罪するも戦争の話は一切語らず。若い主人公は自分の考えを押し通しながら孤立していく。大きな事件をきっかけに親子の確執もとけてゆく。誰もが苦しんでいた。戦争ほど愚かなものはない。悲しみと苦しみの連鎖。2018/02/12
星落秋風五丈原
24
「傷を抱えた少女と大人が互いを知る事によって癒される」というありがちな展開を予想するとえられるものではない」という意思の表れか、極めて現実に近い厳しい結果が提示されるからだ。 「わたしは人生にけずられて丸くなったりしないし、現実に甘んじたりしないわ。絶対に」と反発したケリーは、今頃父親と同じ年令になっている。「もしわたしが男の子で、中南米かどこかで戦争があったとしたら、父さんはわたしを行かせたいと思う?わたしがビニールの遺体袋に入ってアメリカに送り返されるのを望むの?」と、あの頃ケリーは父親に聞いていた。2006/08/06
マツユキ
10
ベトナム戦争を題材にしたヤングアダルト。主人公のケリーは、親や友人に苛立つ十五 才。最初は軽い気持ちで、図書館に通うホームレス、ウィームズさんに声を掛けるが…。ケリーを含め、感じの悪い、今時の(と言っても、八十年代)若者たちがリアル。彼らも時代が違えば…。そして、ベトナム戦争に行った父親たち。国語の授業で『イーリアス』を取り上げているのが、印象に残りました。悲しい事に昔からずっと変わらず、戦争は身近な問題なんだろうな。親や友人に悩む十五才の物語としても、痛々しいんですが、読み応えがありました。2019/09/05
マイケル
5
米国の負けたベトナム戦争帰還兵の後遺症。金持ちになった主人公の父と対照的なホームレス。ホームレスになったのは怠け者で本人の努力が足りないせいだという富裕層の言い分。「この国じゃ、何千というホームレスの人たちがいるんだよ。」という格差社会。米国人が「良い戦争」というWW2のように数発の原爆で勝てたという意見。戦争だけでなく色々な社会問題を考えさせられる。あとがきで紹介されている映画を見てみたい。そしてサイモンとガーファンクルの「スカボロー・フェア」。昔発表会(?)で歌ったことのある懐かしい曲(あの高音!)。2020/04/22
あかつき号
3
アメリカの人たちにとって、ベトナムはある種の聖域なんだと思う。関わった人もその後に生まれた子供たちにも一つのくびきとなって、考えるきっかけであるもの。ケリーの日常にはイ・イ戦争の影があるが、ベトナムから動き出せていないアメリカの人たちの日常に、安堵する。そして「原爆」で事を終わらそうとする高校生の軽口。この乖離は日本にもある。ヒロシマ・ナガサキ、そしてフクシマ。 ケリーのひびわれたガラスの次々りが愛おしい。私の中のケリーは眠っていないか、死んでないか、自分に向けられた矛先が痛かった。2012/09/23
-
- 電子書籍
- スマホを落としただけなのに【分冊版(1…