内容説明
死んだはずの彼女に、ぼくは恋をした。海底調査人が深海を調べるように、館にとどまる“ぼく”。死ぬことのできないクラゲのように、哀しみに身をゆだねる水無瀬。二人のたどりつく先とは―。
著者等紹介
樋口直哉[ヒグチナオヤ]
1981年、東京都生まれ。料理人を経て、2005年『さよならアメリカ』で第48回群像新人文学賞を受賞し、小説家デビュー。同作は第133回芥川賞候補になる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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優愛
65
記憶を揺さぶるローズマリーの香りと潮、すなわち死の香りが風に乗って薫る夏、僕は一人の少女と出会い恋に落ちた――人魚姫は美しい声と引き換えに足を手に入れました。王子様の側にいたい。結ばれたい。そんな想いをそっと抱きながら。でも人魚姫は王子様と結ばれることは出来ずナイフを突き立てることも出来ずその額にキスをして泡となりクラゲに生まれ変わったのです。流した涙は泡となり溶けて消える。誰に気づかれることもないまま。魔法は解けてしまった。僕の願いとは裏腹に。切ないね。だけどそれでいい。僕も君と同じ、幸せだったから。2015/03/03
エンリケ
33
タイトル通り、水族館でクラゲを眺めているような気分になった。高校生が旅先で不思議な少女と出会い恋をするお話。終始静謐で透明感に溢れており、激情に駆られる事もなく二人は行動を共にする。少女の悲しい秘密、そして少年の父の死の真相。それらは謎解きを待たず予測がついたが、ゆらゆらと揺れる二人の気持ちを見ているだけで心惹かれた。少年はこのひと夏の経験を淡々と受け止める。だがよくよく考えると彼にとってはかなり過酷な結末。童話の人魚姫は果たして少女だったのかそれとも少年だったのか。生と死の狭間を彷徨う様なお話を満喫。2017/03/27
TANGO
21
図書館本。タイトルと装丁にひかれた。高校2年生の僕のひと夏の物語。自然の描写は、美しくて気持ちいい。生と死に関しては、違和感がぬぐえないところがあるけれど、クラゲのようにフワフワとしてつかめないのが、いいのかもしれない。2013/07/03
りこ
13
“愛してる”の代わりにお別れのキスを――人魚姫が声と引き換えに手に入れたものは地上を自由に動き回るための足。彼がこの夏見つけたものは生前の父の真実とかけがえのない恋。そして永遠の時間を手にした彼女が願ったことは...強い想いはその強さゆえに危うくもある。王子の首にナイフを突き立てられずクラゲになった人魚姫、結果的に彼女を失った彼、永遠を手放した彼女は自分の選択を後悔しなかったのだろうか。どうか彼らが、出会った運命を幸せだったと思い続けられますように。2015/03/31
片道きっぷ
9
ひと夏の不思議な物語。夏休みに洋館で出会ったあの子の手はひんやりと冷たかった……。AnotherのSを読んだばかりだったので、期待しすぎてしまったかも。ラノベのようでサラッと読めた。人魚姫の解釈は素敵。2015/04/07