オリエンタリストの憂鬱―植民地主義時代のフランス東洋学者とアンコール遺跡の考古学

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オリエンタリストの憂鬱―植民地主義時代のフランス東洋学者とアンコール遺跡の考古学

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  • サイズ A5判/ページ数 582p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784839602185
  • NDC分類 223.5
  • Cコード C3022

出版社内容情報

アンコール遺跡が廃墟から蘇り世界的な文化遺産として有名になったのは、フランスの冒険家・考古学者による発見・採掘があったからこそです。そしてフランスがその後、カンボジアをはじめとするインドシナの考古学・歴史学研究をリードしてきたのは誰もが認めること。しかし、彼らがパリに大量の美術品を持ち帰り、西欧のエキゾチズム嗜好に合わせてデフォルメして紹介したのも事実です。その背景にあったのはフランスの植民地政策。考古学は政治とは切り離せないものなのでしょうか。
気鋭の美術史研究家がパリの膨大な一次史料を渉猟し、ついにフランスのインドシナ考古学研究史を再構築しました。フランスにとっては触れられたくない事実がどんどん出てきます。そして…
ルイ・ドラポルト、エミール・ギメ、ルイ・フィノ、ポール・ペリオ、アンリ・パルマンティエ、ジョルジュ・グロリエ、アンリ・マルシャル、ジョルジュ・セデス、アンドレ・マルロー等々…ビッグ・ネームが続々登場します。果たして彼らはアジアから何を持ち去ったのでしょうか。


序章   パリの国立アジア美術館とアンコール遺跡の近代考古学史
第一章  ルイ・ドラポルトとアンコール遺跡復元の夢
ギメ美術館の展示品とドラポルト
冒険譚としての遺物搬送
ドラポルトのクメール美術観
パリにおける初めてのクメール美術展示
クメール美術館からインドシナ美術館へ
インドシナ美術館のレプリカ展示
レプリカにみる19世紀末の遺跡の状況
19世紀の復元の理想
参道彫刻をめぐる謎
考古学的スペクタクルと万国博覧会
晩年のドラポルト                 

第二章  フランス極東学院の創設とその政治学        
初代院長の選出をめぐる謎
草創期の極東学院の調査の実状
日本学者クロード・メートル
考古学的調査のための法的整備
法制下の遺物の管理と移送
極東学院創設の政治学
クロノポリティクスとジェオポリティクス

第三章  本国の理念と植民地の実践のはざまで(1)――現地調査員の現実
2枚の写真より――ヤヌスとしての東洋学者
フランス東洋美術研究のダブルスタンダード
現地調査員のキャリア(1)――文献学者カバトンと遺跡目録作成者ド・ラジョンキエール
現地調査員のキャリア(2)――2人の調査員の死、カルポーとオダンダール
現地調査員のキャリア(3)――建築家の仕事、デュフールとパルマンティエ
現地調査員のキャリア(4)――アンコール保存局長、コマイユとマルシャル
現地調査員のキャリア(5)――カンボジア生まれの芸術局長、グロリエ

第四章  本国の理念と植民地の実践のはざまで(2)――メトロポールの発展
20世紀初頭のパリの東洋学事情
パリの東洋美術史料/パリのオリエンタリスト(1)――ジョゼフ・アッカン
パリのオリエンタリスト(2)――メトロポールの寵児、グルセとステルヌ
グルセの東洋美術史理念
東洋美術館の再編成(1)――ギメ美術館の変革
東洋美術館の再編成(2)――国立美術館統合とインドシナ美術館の終焉
東洋美術教育体制の確立――ルーヴル学院におけるアジア美術教育
普遍主義、形式主義、そして植民地主義
方法論的齟齬の表面化――ステルヌ著『アンコール遺跡のバイヨン』の衝撃
ステルヌのアンコール詣で

第五章  アンコール考古学の発展とその舞台裏(1)――考古学史の中のマルロー事件
マルロー事件と考古学史
事件の概要
マルロー事件に見る1920年頃の考古学の状況
法的根拠の曖昧性と文化財保護法の改正
法改正の舞台裏
事件後のバンテアイ・スレイ調査
パルマンティエの論文と「東洋のモナリザ」
甦るバンテアイ・スレイ
アナスティローシスと復元の思想

第六章  アンコール考古学の発展とその舞台裏(2)――現地の混乱とメトロポールの無理解
学院の新しい顔――セデスとゴルベフ
ゴルベフの新しい考古学の方法
グロリエのカンボジア芸術局、美術学校、美術館
カンボジアの伝統復興は誰のためか
カンボジア芸術局にみる植民地政策の変化/グロリエの暗躍とアンコール考古学への影響
学院による古美術品販売
エスカレートする古美術品販売――欧米の美術館との取引
近代考古学・美術史学への「貢物・供物」
メトロポールの無理解

第七章  パリ国際植民地博覧会とアンコール遺跡の考古学 
植民地博覧会と考古学の貢献
復元されたアンコール・ワットの象徴的意味
マルセイユ博のアンコール・ワット
植民地博覧会と極東学院/正確な細部が意味するもの
極東学院展覧会
植民地宮に見るインドシナとアンコール遺跡の表象
植民地宮の建築様式
ファサードの巨大植民地絵巻
ジャニオの様式
フレスコ装飾――中央ホールと2つのサロン
描かれた考古学と伝統工芸
博覧会と考古学・美術史

第八章  アンコール遺跡の考古学史と日本
戦時下日本のアンコール・ブーム
第2次大戦以前の日本人によるアンコール研究
日仏会館と極東学院の連携
第2次大戦中の日仏会館
日仏印文化協力前夜――戦時下の極東学院の亀裂
第1回教授交換、太田正雄
仏印巡回現代日本画展覧会
ゴルベフの来日講演と展覧会
南部仏印進駐と文化協力の変化
戦時下日本におけるアンコール遺跡の意味
第2回教授交換、梅原末治
セデスの来日計画
極東学院と帝室博物館の古美術品交換
戦時の古美術品贈与と販売
植民地考古学の終焉と新たな悲劇のはじまり
最後に――日本が見たアンコールの夢

終章   あとがきにかえて

図版リスト
書誌
索引



【序章】から
パリの地下鉄六号線と九号線が交差するトロカデロ駅を降り、小高い丘に建つシャイヨー宮の広いポーチに立ってエッフェル塔を一望する。一〇年前、本書の基礎となる調査をなっていた私は、午前一〇時ちょうどこの塔を眺め、一〇〇年程前のベルエポックのパリを想像してから一日の仕事に取りかかる、そんな毎日を送っていた。
エッフェル塔が建造されたのは一八八九年のパリ万国博覧会のことである。この塔を臨むシャイヨー宮ができたのは一九三七年のパリ国際博覧会のこと。それ以前には、ここには一八七八年のパリ万博の際に建てられたトロカデロ宮があり、内部にはカンボジアのアンコール遺跡群からもたらされたクメールの美術品やレプリカがところ狭しと展示されていた。一八八九年の万博では、アンコール・ワット寺院の一基の塔がパヴィリヨンとして復元され、エッフェル塔の東側に聳えてもいた。ここは、ヨーロッパにおいて初めてアンコール遺跡の遺物が登場した記憶のトポスであった。
しばし古き時代のパリを想像した後、塔に背にして、私は調査を行なう場所へと向かった。シャイヨー宮東翼部に沿って延びるウィルソン大統領大通りを下ってゆくと、カンボジアを含む仏領インドシナの研究を行なうために一八九九年に創設されたフランス極東学院のパリ本部がある。さらに歩みを進めてイエナ広場に出ると、そこには円柱形の入口部を持つ独特の建物が見える。フランス最大のアジア美術コレクションを有する国立アジア美術館、通称、ギメ美術館である。この美術館がパリにお目見えしたのも一八八九年のことであった。想像の中のトロカデロ宮、フランス極東学院、そしてギメ美術館、これら三つの場所が当時の私の調査の場であり、本書の主役たちが深く関わった場所である。
創立者エミール・ギメの名を冠したギメ国立アジア美術館は、日本では比較的よく知られた存在だろう。エミール・ギメは一八七四年に中国や日本を訪れ、主に仏像を蒐集して帰国、まずはリヨンに、ついでパリに自らが蒐集した宗教美術品を展示する美術館を設立した。彼が集めた仏像を拝観すべくギメ美術館を訪れる日本人観光客も少なくない。だが、この美術館を訪れた日本人は、少なからず面食らうのではなかろうか。美術館の顔ともいえる正面入口の展示室にあるのが、日本の仏像でも浮世絵でもなく、また中国の青銅器や陶磁器でもなく、カンボジアのアンコール遺跡から出たクメール彫像群だからである(図1)。日本の書画骨董の類は三階に、そして、お目当ての仏像は入場無料の別館に展示されるにとどまっている。この美術館の顔は、まずもって、クメール美術なのである。
                   …
ギメ美術館は、国立アジア美術館というその名の通り、フランスを代表するアジア美術館であり、さらには、欧米有数のアジア美術コレクションを有する施設である。しかし、アジア美術館の名を冠する世界中の数ある美術館の中で、クメール美術を多数保有し、美術館の顔としているのは、プノンペンにある国立カンボジア美術館を除いてはここくらいである。北米であれイギリスであれドイツであれ、いわゆるアジア美術館のコレクションの柱となるのは、インドや中国の仏教遺物や古美術品である。なぜフランスの国立美術館だけが例外的にカンボジアの美術を多数収蔵しているのか。中国やインド、そして日本の名品を多数所有するロンドンの大英博物館やワシントンのフリア・ギャラリー、あるいはボストン美術館がほとんど所有していないクメールの古美術品を、なぜ、フランスだけが持っているのか。言うまでもなく、作品来歴が示す通り、フランスの植民地時代に大量の美術品や考古学的遺物が、東南アジアからフランスにもたらされたからである。フランスは一八八七年にトンキン、アンナン、コーチシナ、カンボジアを保護国とする「フランス領インドシナ連邦」を築き(一八九三年にはラオスも併合)、二〇世紀半ばまで当地を植民地支配した。この間、アンコール遺跡はフランスの研究機関に属するフランス人考古学者たちによって、ほぼ独占的に調査された。インドシナにおける近代的な意味での考古学は、フランスによって開始され、学術的調査と保存活動が行なわれるとともに、大量の遺物がフランスへと移送されたのであった。
作品の来歴情報は、さらに様々なでき事を暗示している。先のプリヤ・カン遺跡出土の仏像は一九三一年にフランス極東学院によって送付されたと記されているが、一九三一年といえば、パリにおいて国際植民地博覧会という万博のようなイヴェントが盛大に開催された年である。博覧会には実物大の巨大なアンコール・ワットのレプリカも建造された(図66

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内容説明

ルイ・ドラポルト、エミール・ギメ、ルイ・フィノ、ポール・ペリオ、アンリ・パルマンティエ、ジョルジュ・グロリエ、アンリ・マルシャル、ジョゼフ・アッカン、アルフレッド・フーシェ、ルネ・グルセ、フィリップ・ステルヌ、ジョルジュ・セデス、ヴィクトル・ゴルベフ、アンドレ・マルロー…彼らはアジアから何を持ち去ったのか。植民地主義時代のフランス東洋学者とアンコール遺跡の考古学。

目次

序章 パリの国立アジア美術館とアンコール遺跡の近代考古学史
第1章 ルイ・ドラポルトとアンコール遺跡復元の夢
第2章 フランス極東学院の創設とその政治学
第3章 本国の理念と植民地の実践のはざまで(1)―現地調査員の現実
第4章 本国の理念と植民地の実践のはざまで(2)―メトロポールの発展
第5章 アンコール考古学の発展とその舞台裏(1)―考古学史の中のマルロー事件
第6章 アンコール考古学の発展とその舞台裏(2)―現地の混乱とメトロポールの無理解
第7章 パリ国際植民地博覧会とアンコール遺跡の考古学
第8章 アンコール遺跡の考古学史と日本

著者等紹介

藤原貞朗[フジハラサダオ]
1967年大阪府泉佐野市に生まれる。大阪大学文学部卒業・同大学院修了、リヨン第二大学に留学。大阪大学大学院文学研究科助手を経て現在、茨城大学人文学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

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一滴水

0
出会えてよかったと思える一冊。これまでに何度もアンコール遺跡やカンボジア国立博物館を訪れたことがあり、それらがフランス人の研究者により発掘・修復されてきたことも極東学院やオリエンタリズムについても断片的ながらわかっていたが、それらがすべて鮮明に焦点を結んだ思いがする。日本の関与についてもよくわかり、これまでの自分のアンコール遺跡・遺物に対する認識を改めされされた。この本の価格に見合った充実した内容と面白さに満ちた名著。2023/01/26

Mayuko

0
決死隊のごとく始められたインドシナの考古学調査は、パリ本部と現場のさまざまな「遠さ」から、関係者の間に憂鬱感をもたらす。多様な立場の彼ら「オリエンタリスト」が、植民地主義のなかで何を優先順位とし、どのように行動したのか。植民地の考古遺跡をどのように利用しようとしたのか。植民地主義のなかで奪われるものともたらされるもの、そのせめぎ合い。フランスとカンボジアの例からそれを、当時の空気感とともに書き切っている。植民地主義研究の基準となる一冊。500ページを超す大著だが、手に汗握り3日程で読み切ってしまった。2018/10/18

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