内容説明
「私は殺ろしていません―」獄中で無実を訴え、十二年間書き続けた三百五十余通の手紙…。冤罪の罠にとらわれる“供述弱者”の存在を明るみに出し再審無罪へと導いた画期的な調査報道は、いかにして可能となったか。石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞。
目次
1 「私は殺ろしていません」―無実を叫ぶ三五〇通余の手紙
2 彼女は発達障害かもしれない
3 獄中鑑定―供述弱者とは
4 冤罪をほどく
5 国賠訴訟へ
エピローグ なぜ裁判官は冤罪を見抜けないのか
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
fwhd8325
70
初めて冤罪に興味を持ったのは、中学の頃だったと思います。その時にも、無理矢理に自白させたり、思想上危険と判断された事件は多くありました。警察という組織は、何故、こうも暴走してしまうのだろうか。この著書でもそれは解明されていない。きっと、今も、これからも何も変わらず、冤罪を作っていくのだろう。怒りや哀しみ。冤罪が晴れてもその気持ちは決して消えるものではない。2023/02/19
Willie the Wildcat
68
名誉回復までの道のり15年9ヶ月、既に40歳。病を受け入れ、病を公開する件に垣間見る心の葛藤。心底の尊厳が、全ての原動力。法治国家の普遍的価値と期待は不変。しかしながら、『エピローグ』で語られる閉鎖性、著者たちも自省する迎合性など、法制度もヒトの”魂”次第。What if?が多々頭に浮かぶ。故にChecks & Balancesと、LLの仕組みによる自浄作用がキモ。印象的なのが「300点にわたる未公開の証拠」の件。裁判官は検事をOverrideできない?!2023/04/29
小鈴
28
「冤罪は組織がうむが、冤罪を解く鍵は個人だ」という言葉は重い。組織の中にいる人間ほど身に染みる言葉だ。滋賀県の湖東記念病院の呼吸器外しで殺人事件として立件された西山美香さんの冤罪事件。中日新聞の編集者の著者らのチームが、美香さんの発達障害などの病気から警察に迎合的な自白に追い込まれたことを明らかにしていき「供述弱者」の存在を社会に訴えた。この企画は中日新聞が社をあげて後押ししたのではなく、記者の記名記事のコラムだからこそできた。みなの個人としての動きに後押しされて冤罪を勝ち取った。特に裁判官が必見。→2022/03/06
香菜子(かなこ・Kanako)
22
冤罪をほどく: “供述弱者”とは誰か。中日新聞編集局と秦融先生の著書。冤罪なんてあってはならないこと。供述弱者であるからといって冤罪をかけられるなんてあってはならないこと。知識も経験もある人が知識も経験もない供述弱者を上から目線で高圧的に痛めつけて冤罪をかけるなんて許されない。冤罪を引き起こした警察・検察・裁判所関係者は徹底的に処罰されてほしい。冤罪で苦しめられた本人や家族や関係者からしたら間違えましたでは済まない話だから。間違いを認めないような警察・検察・裁判所関係者を実名報道で批判されるべきなのかも。2023/12/28
澤水月
17
発達障害などハンデ持ちつつ気づかれぬ「供述弱者」。恋情につけこみ16年も冤罪晴らせず受刑を終えてから無罪となった滋賀の呼吸器外し事件、再審へ絡む糸をほどく記者らのルポ。表紙にもなっている「殺”ろ“していません」という拙い文字と必死の思い…。「直筆文字」は強い。 刑事に恋をし誘導尋問に積極協力、「検事さん、否認しても本当の気持ちではありません」とわざわざ手紙で念押し。患者の最期が「ハグハグと口を…」など大仰な供述(脳が壊死している状態で、ありえない。刑事の創作)を信じる裁判官がなぜ生まれるかなども丁寧に検証2022/04/10