内容説明
自然概念や社会概念、ひいては人間社会の特性や人間性についての考察は、現在我々が直面している社会的経済的諸問題に関わることである。本書は、これまでの経済学者達が土地に代表される自然と人間労働との関係を如何に把握し、そして、彼らの見解が如何に影響しあい、如何に今日まで継承されてきたか。ときに通説の誤解・曲解を正しつつ論述する力作である。
目次
序論 自然、社会、および生産
第1章 ウイリアム・ペティの問題提起―「土地と労働との自然的等価」の探求
第2章 ジョン・ロックの洞察―土地の有用性は人間労働の成果
第3章 リシャール・カンティヨンの土地観―すべての富の源泉
第4章 二つの古典的土地価格論―ロックとカンティヨン
第5章 フランソワ・ケネーの土地観―富の唯一の源泉
第6章 アダム・スミスの自然観―地代は自然の労働の生産物
第7章 ジャン・バティスト・セーの自然的生産動因論―マルクスの自然観の源泉
第8章 デイヴィッド・リカードウの自然観―労働価値説と自然的動因論との合成
第9章 ロートベルトゥスの地代論―労働価値説と自然力論批判との相剋
第10章 マルクスの地代論と中世的土地観
第11章 中世的土地観を継承した近代経済学者
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てれまこし
3
土地と他の財との区別は形骸化してる。だが、どういう訳か経済学説においては、マルクスや近代経済学者に至るまで、自然を人間に並ぶ生産主体として捉える見方が根強く残った。中世的自然観が労働価値説の正当化に都合がよかったからという見立てだが、自分などは大地の女神信仰の名残がないかと疑う。著者の意図は労働価値説を否定するところにあって、自然の恵みなど宗教・哲学に任せて労働と資本の経済学を徹底したい。だが、環境問題が焦眉の課題となった今では、むしろこの経済学をかつてそれが派生した哲学にもう一度埋め直す必要がありそう。2019/11/19