内容説明
「角はなぜ泣くの?輿入れはめでたい事よ。千場弥五郎さまはきっといい人。赤手のような掌のない娘を妻に迎えてくださる位だから…」ぬいはそう言って笑った。ぬいの笑顔には涙が光っていた。甲斐・白坂の郷主笹尾四郎兵衛頼久の美しい娘ぬいは近々、武田の重臣小山田信茂の家来千場弥五郎に嫁ぐ事になっていた。ぬいを慕う角蔵は軍役が回ってこないのに自ら軍役を申し出た―。歴史の表層に顔を出さず埋没していく数多くの雑兵。その生きざまを詩情豊かに描いた秀逸長篇小説。
感想・レビュー
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活字ジャンキー
5
平時は百姓、戦時は武田方の雑兵として駆り出される津金衆の男二人の物語である。苛烈な運命を生きる二人だが、身命を賭してぬいさまをお慕いする角蔵の姿にいじらしさと感動をもらい、一時は故郷を棄て新たに命を繋げる源次の心情に哀感を抱く。野暮と思いながらもう少し、一頁でも良いから至福の二人を読みたかった。2021/07/21
まいご
0
農兵視点の戦国描写を新鮮な気持ちで読んだが、これは強い反戦小説では。べつだん説教じみた行もお涙頂戴もない、この時代には特別ではない事柄に「これはあんまりだ、間違ってる」と思わされてしまう。侍が主人公ならそういうものだと受け入れていたであろう。手柄についての問答では、角蔵と共に読者もまた一つの見方に囚われていた事を指摘されるのだ。源次ともじい様ばあ様とも異なる、ふたりの可能性を夢見られる爽やかな終わり方に救われる。2017/07/21
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- 和書
- 「大列車衝突」の夏