内容説明
最愛の子を失い、夫の浮気も発覚して意気消沈するドロシー。そんな折りも折り、海洋調査研究所から逃げ出した謎の怪物「アクエリアス」が彼女の前に現われる。身長2メートルはあろうかという、海陸両棲の蛙男。ドロシーはその怪物を海に帰してやろうとするが…。哀しみの果ての優しさを描いた表題作ほか、倦怠期にさしかかった中年夫婦と新婚カップルの奇妙なやりとり(「聖ジョージとナイトクラブ」)、公園のベンチで終日夢想に耽る男の話(「置き去りにされた男」)の2篇収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三柴ゆよし
12
あまりに冷え切った夫婦関係に、離婚する気力さえ失った中年主婦ドロシーが、研究所から脱走してきた蛙男ラリーを匿うことで愛と希望を取り戻していく「ミセス・キャリバン」が特に印象に残った。ドロシーがラリーに向ける感情は、恋愛のそれというよりはむしろ母性愛に近いのかとも思うが、そうであるならば、喪失を前提としているだけになおのこと悲しい。心理描写や情景描写が思いのほかに細やかで美しく、単なるアイディア・ストーリーにはない、作者の腕の冴えを感じさせる作品だった。女性の感想を聞いてみたい。2013/04/28
ヴィオラ
8
作中にキャリバンという単語出てきた?もし出てないなら「キャリバン」は象徴的な意味で使われているはずで、パッと思いつくのはやっぱり「テンペスト」に出てくる怪物。 色々と行き詰まっている主人公が、蛙男と出会う事で新たな道へ一歩踏み出す。…と、そういう紹介や感想が多いけど、テンペストのキャリバンを調べると「復讐」というキーワードが。親友の息子の死や夫の秘密の暴露も、キッカケは蛙男だし、主人公が孤独になったとたん蛙男が姿を消すとか…。つまり、これは怪物の人間に対する復讐譚? …と、色々な読み方が出来そうな作品。2018/04/01
法水
2
子供の死と流産のために夫フレディとすっかり冷え切った関係のドロシーは、ひょんなことから海洋研究所から逃げてきた蛙男を自宅に匿うことに。怪物との恋愛ということで『シェイプ・オブ・ウォーター』の先駆けとも言うべき表題作。昨年、アメリカで復刊されたとか。「置き去りにされた男」は「ミスター・マッケンジーは公園のベンチに座ってメキシコの夢を見ていた」という冒頭の一文から惹きつけられるが、クセノフォンの著作の世界と混然一体となるエンディングも圧巻。他に「聖ジョージとナイトクラブ」を収録。2018/03/31
すけきよ
1
「ミセス・キャリバン」夫婦関係が冷え切ったドロシー。そんなある日、海洋研究所から逃げてきた蛙男が現れる。匿い、再び生き甲斐を取り戻していくが……/「聖ジョージとナイトクラブ」ギリシア旅行にきた倦怠期の夫婦。そこで新婚夫婦と出会い、厳しい家庭で育ったため、初夜に悩む夫にアドバイスを与えるが……/「置き去りにされた男」一瞬にして、全ての家族を失ってしまった弁護士。アル中の浮浪者のような生活をして、公園のベンチで思い出に浸る日々……/三作とも喪失と優しさを描いた物語。その優しさは、シニカルな慈悲に見えなくもない2009/01/26