内容説明
東洋文化を研究している〈私〉のもとに、ある日一人の使いがやってくる。ヨーガの秘法に習熟したホーニヒベルガー博士の伝記を執筆中に亡くなった夫の代わりに、その仕事を完成してほしいというゼルレンディ夫人の申し出に興味をもった〈私〉は、遺された日記から驚くべき事実を発見する。「セランポーレの夜」併録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ニミッツクラス
27
90年(平成2年)の税抜369円の福武文庫初版。同社(現・ベネッセ)の海外文学シリーズの一冊で、表題作と「セランポーレの夜」の2編収録。エディシオン・アルシーヴ(出版社、京都府)の83年のソムニウム叢書第3弾となる同名単行本の文庫化。幻想奇譚寄りで舞台はインドかぁ…案外事実かも知れず、同時にSFとしても読める。著者エリアーデはルーマニア人で、彼の地なら奇譚に不自由しないが留学先のインドで更に感化されたのだね。「セランポーレの夜」は後知恵だと時空の超越話になるわけだが、現地インドの描写が文学だ。★★★★☆☆2025/06/11
かふ
20
大江健三郎がエリアーデについて書いていたので読んでみた。中沢新一のさきがけのような宗教学者が書いた小説。インド宗教体験の世界でヨーガ・マントラとか。意識が別世界に飛んでしまって生まれ変わるというような話。幻想文学としても面白い。福武文庫は今は無かった。あの頃(オウム事件の頃)はこういう本が結構出ていたんだよな。2024/02/23
棕櫚木庵
16
「ホーニヒベルガー博士の秘密」とは,インド研究に生涯を捧げたホーニヒベルガー博士の秘密.それを追って姿を消したゼルレンディの研究を引き継ぐように夫人から依頼された語り手は,ゼルレンディ自身の謎に引き込まれ・・・.そうか,むしろ,「ゼルデンディの秘密」と言うべき物語だな,なんて読み進めていると・・・最後に足元をすくわれたような感覚に襲われる.全然違う話だけど,コルタサル「続いている公園」のような.▼「セランポーレの夜」は,インドの濃密な森の中の一夜の物語.SF風のタイムワープの物語か.いや,→2024/12/09
三柴ゆよし
15
表題作についてはインド哲学やらヨーガの秘儀やら小難しいオカルト蘊蓄が多くて中途で放り出そうかと思ったのだけど、最終的には幻想文学にありがちな<あれは一体なんだったのでしょう……?>式のオチに落ち着いて、個人的にはわりかし好みだった。併録の「セランポーレの夜」も表題作同様、時空間の超克を取り扱っているが、こちらは夢とも現実ともつかぬベンガルの夜の森を主人公たちが彷徨い歩くという異国情緒に満ちた作品。『ムントゥリャサ通りで』のインパクトには遠く及ばないとはいえ、いずれも佳作というべきだろう。2011/11/05
topo
9
現実と幻想のあわいに嵌まりこんでしまったような、時の概念が狂い時空の隙間に投げ出されたような不穏だけどなぜか惹かれる読後感。 サイエンス要素のないSF、むしろサイエンスとは対極にある秘術による時間の物語。 併録は『セランポーレの夜』 道に迷った深夜の森に響く女性の悲鳴を辿り出会ったのは─。 インドの土地が醸す神秘に、謎めく事象があいまって幻覚を見ている気分に。 両作とも、今この時すらまやかしの時間で、誰かに操られ知らぬ間に違う時にいるのではと心細い気分にさせられた。 そもそも時間とは─2023/04/16
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