内容説明
シチリアの貧しい家庭に育ったパスカルは、ある日故郷をとび出し、モンテカルロの賭博場で思いもかけない大金を手に入れる。郷里で偶然発見された水死体を自分と誤認された彼は、全く新しい人生を始めようと決意するが…。人間のアイデンティティ(存在証明)を根源まで問いつめた、ノーベル賞作家の代表的長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
70
この本はもう絶版になっていて、図書館で借りてきて読みました。あまり読む人もいないのでしょうが、この作家にしてはめずらしい長編でピランデッロ自身の考えなどが反映しているような気がしました。彼が結婚したものの、父親の事業が破たんして一文無しになります。その後に金の必要に迫られて書いた著作らしく諧謔的な感じがよく出ています。どこかの出版社で再販でもしてくれないでしょうか。2015/09/10
ひと
6
ずっと気になっていた、たぶんヤマザキマリさんの本で紹介されていた本。絶版のためなかなか手に入らなかったけどメルカリでゲット。これまでの人生をなかったことにして、別人としてやり直すのは、一度は妄想することかもしれない。今では戸籍や住民票だけじゃなく、SNSもあるので、なかなか自分を殺すのは難しいし、すぐに見つかってしまいそう。どんなに気に入らない、納得できない、理不尽な人生だったとしても、自分を背負い続けないと生きていけないってことなんだろうな。思考実験の参考になる。2023/03/11
Mark.jr
4
とにかくぐちゃぐちゃだったらしい執筆当時の著者の私生活による逃避願望が表れた、間違って死んだことにされた男という荒唐無稽な設定と、じゃあそもそも自分という人間のアイデンティティは何なのかという哲学的問題のせめぎ合いが、本書最大の読み所。2020/03/25