出版社内容情報
人間存在の根源が崩壊の危機に瀕している時代状況のなかで、私たちの生命体が生まれた宇宙の進化の過程やその後の人間社会の有り様を、あらゆる学的体系を統合して解読しなければ持続可能な発展は不可能である。
生命体の進化の過程は遺伝子の利己主義と複製能力の論理で捉えることが出来るし、生命史の中から生まれた人類史はミーム=表象の疫学として捉えることができる。
ところがヒトは他の生物と違って遺伝子の不平等を虚構の世界をとおして平等であるかのように複雑な社会を生み出し、遺伝子の論理からはみ出してしまった。
文化生態学はあらゆる学的体系を統合して35億年の生命史を解読し、生命系の再帰性(生存系はより大きな生存系の中でしか存続できず、生存系はそのもとにより小さな生存系を含んでいる)と創発性(生命系の進化の過程で生命系がこれまでにない新たな性質を生みだし続ける)を基礎にして、持続可能な発展の可能性を追求するためのものである。
「文化生態学叢書」全6巻、いよいよ刊行開始!
シリーズを始めるにあたって
はじめに
●第1部 われわれとは何か
◎第1章 日常生活の再生産―生存の論理
よく生きてよく死ぬこと/ニッチの論理/主語の論理/共生の論理/述語の論理
◎第2章 相互交通と色気―関係の論理
個的かつ類的な存在/媒介項としての規則と分業/分業と多様性の論理/規則とつきあい方の論理/色気を求めて
◎第3章 自己実現と美学―表現の論理
表現しつづける存在/媒介項としての人工物/活動の論理/学習の論理/美学を求めて
●第2部 われわれはどこから来たのか
◎第4章 人類史―再生産を支える論理
物質から生命へ/遺伝子の論理/ミームの論理/感染する表象
◎第5章 共同体の原風景―家と村の論理
環境収容力の展開/地域循環システム/家と村の論理/民俗社会の論理
◎第6章 資本主義―商品の論理
貨幣経済への移行/資本の論理/技術が支える経済/日常の仮想現実化
●第3部 われわれはどこへ行くのか
◎第7章 複雑系の時代へ
システムという見方/胚細胞モデル/不確定性の原理/不可逆性の原理
◎第8章 表象の時代へ
仕事の技術化/言葉の戦場/言語を生み出す
●シリーズを始めるにあたって
私たちは文化に囲まれて、文化のなかで生きている、社会的な存在である。同時に私たちは、生老病死が避けられない生物の一員でもある。文化生態学は私たちを、生物としての存在であるとともに、文化をもった存在としてとらえるところから始まる。そのねらいは、私たちのあり方を根源的にとらえ直すことで、二一世紀を迎えていっそう困難さを増している時代を、よりよく生きていくための手がかりを得ようというところにある。さらにまた二一世紀の最大のテーマになってきている「持続可能な発展(*1)」を大胆にデザインすることも、文化生態学の課題である。
長いあいだ私たちは、いろんな幻想にとらわれてきた。資本主義という制度を壊さない限り人間の解放がないと信じて、多くの人たちが社会主義に期待をいだいた。ところが二〇世紀の社会主義の実験が失敗して、資本主義に逆もどりしている。
しかし資本主義というマクロな制度(これもひとつの文化である)が、日常生活のミクロな場面に直接そのまま、顔を出すわけではない。日常生活で私たちが出会う喜びや悲しみは、それぞれに独自の理由を持っている。マクロな制度がすべてを決めてしまえるほど このように見てくると、文化生態学は二一世紀に大きく発展することが期待される学問であることがわかる。その詳細はこのシリーズで行うことにして、ここでは文化生態学への私の軌跡を確かめておきたい。
ふり返ってみると、ずいぶん前から「文化生態学」にこだわってきた。理科系の分野から文科系に移って、最初にまとめた本が『企業の適応戦略』であるが、この本のなかで始めて「文化生態系」という言葉を使ってみた。それまで生物学の分野で学んできたので、その目で企業や経営をとらえてみよう、というのがこの本のねらいだった。そのなかで、文化を持ち、同時に生きものでもある、という存在を総称して「文化生態系」と呼んでみた。
ちょうどこの本を書きあげる頃に、日航機が群馬県の御巣鷹山に激突するという事故が起きた。文化生態系という言葉に、いつも私はある種の悲愴と諦観といったものを感じるのだが、それはこの言葉から生きものにとって不可避な生老病死が伝わってくるとともに、この日航機の事故への思いも重なっているようである。
しかし本格的に文化生態学という分野を意識しだしたのは、もっとあとである。批評社から一九八九年に『ニッチを求めて』を出版した。。世の中に複雑系がどっと流行する数年前である。
さらに一九九九年になって、『文化生態学入門』に大幅に手を加えた増補新装版が出版された。この機会に副題も「複雑系の適応戦略」にバージョンアップした。こうして振り返ってみると、批評社から出版された三冊の本を通して、ようやく文化生態学を本格的に展開していく準備が整ったことをあらためて確認できる。このシリーズで文化生態学を基礎づけながら、同時に多面的な応用をおこなってみることにしよう。
全体の流れを大づかみしておこう。最初に文化生態学の世界を概観したあと、文化生態学を進めるための手がかりとなる生命体科学の論理をつかまえる。そのあとの三つの巻で、文化生態系を三つの分野に分節して議論を深める。三つの分野というのは、経済と経営の分野、伝達と認知の分野、現代民俗の分野である。そしてこれらの議論をふまえて、最終巻で複雑系を手がかりにして、二一世紀を生き延びるための戦略をデザインする。それでは、第1巻から始めよう。
*1 持続可能な発展 モノとエネルギーを慎ましやかに利用し、知識とサービスを豊かにすることで、将来にわたって自然環境を壊さないで生活を充実させると
『文化生態学叢書』は全6巻です。ぞれぞれの巻のテーマは、以下のように構成されていく予定です。
第1巻:文化生態学の世界―文化を持った生物としての私たち
第2巻:方法としての生命体科学―生き延びるための理論
第3巻:経済と経営の文化生態系―意欲に支えられた協働
第4巻:道具と記号の文化生態系―人工物に媒介された活動
第5巻:生活と民俗の文化生態系―多声が響きあう共同体
第6巻:文化生態系の複雑適応戦略―すみわけによる協調の実現
内容説明
人間存在の根源が崩壊の危機に瀕している今日、私たちの生命体が生まれた宇宙の進化の過程や、その後のヒト社会の有り様をあらゆる学的体系を統合して解読しなければ、持続可能な発展は不可能である。文化生態学は、35億年の生命史を解読し、生命系の再帰性と創発性を基礎にしてヒト社会の持続可能性を追究する。
目次
第1部 われわれとは何か(日常生活の再生産―生存の論理;相互交通と色気―関係の論理;自己実現と美学―表現の論理)
第2部 われわれはどこから来たのか(人類史―再生産を支える論理;共同体の原風景―家と村の論理;資本主義―商品の論理)
第3部 われわれはどこへ行くのか(複雑系の時代へ;表象の時代へ;持続可能な発展を目指して)
著者等紹介
西山賢一[ニシヤマケンイチ]
1943年新潟県三条市に生まれる。1971年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1972年京都大学理学博士。1971~1977年九州大学理学部助手。1977~1981年東京大学薬学部助手、講師。1981~1989年帝京大学経済学部教授。1989~1993年国際大学教授。1993年~埼玉大学経済学部教授
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感想・レビュー
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- 和書
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