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出版社内容情報
鎌田慧氏推薦
子どもの世界が、「普通」と「特殊」とにわけられているのは不思議だ。みんなとおなじ場所にいたい。この子どもの願いをどう引き受けるのか。「障害児を普通学校へ」。保護者と学校と地域とが、一緒になって解決しようという人間的な交流と努力が、記者の熱い想いによって描きだされている。心暖まる南の島の記録である。
はじめに
第I部 障害児を普通学校へ
第1章 さまざまな試み
1 出ておいで
2 就学指導の見直し
3 大阪・池田市では
4「適就」のない大東市
5 原学級保障の大阪
6 生きる力
7 養護学校
8 介助員
9 母子登校
10 先生の宝物
第2章 ひまわり学級
1 あいさつ上手にできる
2 自立への壁ひとつずつ
3「生きる力」注ぎ込む
4 協力学級
第3章 地域に育て
1 統合保育で確実に成長
2 狭まる就学への選択肢
3 さぁランドセル買うぞ
4 頑張り教育行政動かす
5 正しかった「普通校選択」
6 宝物たちに勇気づけられ
7 必要な補助は周りの理解
第4章 「ボクは、普通だよ」
1 両親も健常児と接触不可欠
2 自閉的傾向」宣告に落胆
3 いやがることもあえて……
4 運命の知能検査――問題なし
5 集団生活に期待かける
6 子どもが好きで教師に
7 手づくりドリルはプロ級
8 自立へぎりぎりのしつけ
9 社会自立へ試練と受け止める
10 いじめ誘う行動チェック
11 自閉症も性格と受け止めて
12 引きこもらず、手作り教材
4 緊張で表情硬い新学期
5 中学進学への不安募る
6 苦手克服、弾む達成感
第3章 普通じゃないの?
1 「あなたは学習障害なのよ」
2 出会い経て「自分」知る
あとがき
はじめに
2002年9月。編集局社会部に一本の電話が入った。小学校で特殊学級の担任が障害児に暴行したという情報が入った。本書にまとめた1年に及ぶ長期連載のきっかけとなった。
教師がダウン症の女児を殴り、床に叩きつけ、あげくにはロッカーに閉じ込めるという虐待事件。原因は、聞き分けが悪かった、というだけのこと。
被害者の両親は教師を訴えることなく、泣き寝入りした。告訴すれば警察が動き、マスコミが報じ、学校が騒がしくなる。他の児童が動揺することを心配し、涙をのんだ。
両親の望みは、救済や賠償ではなかった。障害を抱える子もみんなと同じように通学できる環境だった。女児が入学する前からそう訴えてきた。学校長や教育委員会を何度も訪ね、特殊学級ではなく、普通学級で隣近所の同級生と接する機会を与えてほしいと懇願した。
しかし、教員定数の問題や特殊学級の設置要件などの理由が並べられ、親の希望は実現しなかった。
事件をきっかけに住民グループが立ち上がり、自治体長や県教育庁への要請活動を展開した結果、女児は普通学級への在籍が認められた。女児と同じ特殊学級にいた児童も普通学級での授業が多くなるなど、改善がなされたイトルが「学校好きなんだ」に決まった。
本著は連載の並びに準じて第I部で障害児を受け入れる学校側の取り組み、入学時の壁、家族の支えなどをルポした。第II部は学習障害(LD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)を抱え、奮闘する親子らを追った。
養護学校を否定するつもりはない。それぞれの選択がある。
養護学校では、生活自立訓練や作業訓練を丁寧に指導してくれる。社会に出る実践的なカリキュラムは、普通学校に比べると充実している。それでも普通学校への就学を希望する父母が減らないばかりか、増えているのはなぜだろうか。「親のエゴ」とは切り捨てられないほど、統合教育は実態が先行している。
障害児を地域の小学校で受け入れることに積極的な自治体がある半面、頑強に受け付けを拒む自治体がある。小さな村の教育長は「村の子は村で育てる」ことを誇りにしていた。一方、「この子のためです。専門的なケアがある養護学校が適切です」と、普通学校を望む親を説得する教育委員会もあった。
これほどの地域格差があるのはなぜだろうか。行政が決めた“器”に子供をはめ込むか、さまざまな個性を持つ子供を受け入れるためにどう工夫するかの選択ではなかろは小さな島で生まれた障害児は、就学の年に島を出て養護学校の宿舎へ入るケースが多い。六歳の子が親元から離れて生活する。連載の中で、ある小島の小学校がくるまイスの障害児を受け入れた事例を紹介した。村は少ない予算をやりくりし、ヘルパーを派遣し、学校にエレベーターを設置した。
村長は「どんな子供も家族、地域とともに育つ環境を提供するのは行政の責任」とさえ言い切る。
障害児の出現率は1.5%、LD・ADHDは6%(文部科学省科学省調べ)。40人学級ならクラスに1人、障害を抱えた子が席を並べるのは、割合からすると「自然」のことなのだろう。
小島の村長がコメントした考えが「自然」の流れとなることを願いたい。
執筆は「第I部 障害児を普通学校へ」を屋良朝博が、その中の「養護学校」は徳元貴子が担当。「第II部 LD・ADHDの周辺」は奥村敦子が担当した。なお、第二部は、当事者の希望により仮名としている。また、年齢などは取材当時のままとした。
取材に協力していただいた方々に深く感謝する。
2004年5月1日
沖縄タイムス社会部 記者 屋良 朝博