感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zirou1984
39
現代倫理学の入門書に、また英米政治哲学の導入としても最良の一冊。動物解放論や菜食主義といった具体例を中心にしながら、倫理学として取りえる立場を総括的にとらえることが出来る。伊勢田哲治さんの著作は『疑似科学と科学の哲学』に次いで2冊目だが、学問の体系を紐解きながら文献案内も詳細な解説を入れており、その丁寧な仕事には頭が下がる。倫理学というのは「答えが出てしまったら学問が終わる」ものであり相対的記述に収まらざるを得ないものだが、その点も最初のコラムで単純な相対主義に対して警鐘を鳴らしてくれており抜かりはない。2014/03/30
テツ
24
動物を通して倫理学について考える。動物の権利について考えることの多い方々、特に「生命のあるものを食べることをやめよう」教の方は読んだ方が(そして内容を自分なりに咀嚼し思考することが)良いなあと感じました。基本的には動物の権利をある程度認める内容ではあるので安心して読めますし、そうしたことをきちんとロジカルに積み重ねて整理してくれている中身を学ぶことは大切。感情に任せてその場その場でがなりたてて喚き散らすよりも、自分の道徳観をきちんと丹念に静かに研ぎ澄ませていく力の方が絶対に強い。2019/12/03
チネモリ
11
動物解放論を出発点に功利主義や社会契約論など道徳哲学の視点から動物と私たちとの関係性をどう捉えるかが本書の基本テーマである。特に「限界事例」という視点は今後動物倫理を学習する上で参考になる。この視点に立てば人間と動物にあまり違いがないことが分かってくる。道徳哲学の様々な視点や考え方を持ってしても動物との関係性についてもちろん結論は出るはずはない。しかし「関心をもち、無理をせずにできる範囲のことをやり、考え続ける」という著者の態度に共感した。「文献表」も今後学習する上で役に立ちそうだ。2018/07/03
白義
9
英米系倫理学の最良の教科書。動物という境界事例を中心に、功利主義やリベラリズムにコミュニタリアニズム、さらにはメタ倫理学や進化倫理学までざっと概観、見事に議論を整理している。取り扱う題材が具体的かつ、議論全体に緊張感を与えるテーマなのでどれも分かりやすく、さらにバランスがいい。いろいろな立場を紹介しながら、最終的には諸々の理論と具体的状況や直観の間を往復して微調整を加える、往復(反照)均衡法を考える出発点として提出している。前作疑似科学と科学の哲学と合わせて、英米哲学の高水準の入門書になっている2012/03/07
めりこ
6
動物にも人間と同じ権利が認められるべきか。というテーマを題材に倫理学における様々な立場を紹介する内容。うまく説明されてて面白い。けど 読めば読むほど、どの立場も万能ではないことをつくづく確認。万能で無いなら無意味かというとそんなことは無いけども、つまるところ現実の問題に対しては、それを適用しさえすればキレイに解決する、そんなうまい理屈は無くて、色んな立場であれこれ考え向き合うしかないように思えた。倫理学上の対立にはあまり意味を感じなかった。限界を踏まえて現実への適用を考える方が良さそう。2019/11/19