出版社内容情報
済州島4・3事件―3万人もの島民が軍や右翼に虐殺され,反共体制下の韓国で語ることもタブーとされた事件に,ようやく国家が謝罪し,真相究明と補償がなされた。しかしそこで生じたのは,誰を慰霊するかを巡る新しい差別であった。沖縄戦や台湾での事件にも触れながら,国家による大量死の「犠牲者」が国家によって認定されるポリティクスに迫る。
はじめに「犠牲者」の創出と研究者の責務
序章「移行期正義」と「大量死」の意味づけ
1?「移行期正義」論を越えて
2?「死者の犠牲者化」をめぐる議論
3?本書の対象と方法
3.1?過去克服のダイナミズム
3.2?済州・沖縄・台湾における紛争以後
3.2.1?国家暴力と民間人の「大量死」
3.2.2?「犠牲」と「非犠牲」の境界線上で
3.2.3?調査の概要
3.3?本書の構成
第1部?済州4・3事件
第1章?死者から「犠牲者」へ
1?民主主義体制への移行と「過去清算」
2?済州4・3事件とその後
3?「過去清算」の法制化に向けて
3.1?済州4・3委員会の構成と機能
3.2?「正しい犠牲者」をめぐる葛藤と合意
4?誰が「犠牲者」なのか―「犠牲者」の審議・決定プロセス
5?「死者の犠牲者化」がもたらすもの
5.1?「犠牲者」の選別と再構成
5.2?「犠牲者」でもなく加害者でもなく
5.3?「真相究明」と「名誉回復」との不一致
5.4?錯綜する関係性
6?「過去清算」が生み出す「未清算の過去」
第2章?記念施設をめぐる記憶のポリティクス
1?「過去清算」の空間化
2?記念施設「済州4・3平和公園」
2.1?位牌奉安所,刻銘碑,行方不明者の標石
2.2?済州4・3平和記念館,遺骸奉安館
3?慰霊・追悼の領域から
3.1?抹消される死者の記憶
3.2?除外される「武装隊」
3.3?モニュメントの間の不一致
3.4?名前と遺骸とのダブルスタンダード
3.5?「過去清算」が宣伝される場
4?再現・表象の領域から
4.1?展示と刻銘のずれ
4.2?展示をめぐって競合する記憶
5?記憶闘争の場
第3章?公的領域における「大量死」の意味づけ
1?媒介としての申立て
2?書き直される済州4・3事件以後
3?虐殺の事実を「申告」する
3.1?事件以後の「申告書」
3.2?「良民虐殺真相糾明申告書」と「犠牲者申告書」
4?再構成される死者の体験
4.1?「虐殺者」を記す
4.2?怒りの記憶
5?捻じ曲げられる記述
5.1?反共社会を生き抜く工夫
5.1.1?受難史を浮き彫りする
5.1.2?「レッド」と距離を置く
5.2?空白として残された抗争の史実
6?戦略としての二律背反性
7?行間を読み解く
第4章?家系記録から読み直す虐殺以後
1?国家権力に抗する民衆の経験知
2?家族・親族集団の記録資料
3?民間人の死の多重性と死後処理の複雑さ
3.1?「不当で悲痛な死」
3.2?異常で不穏な死
4?家系記録に書かれた虐殺の記憶
4.1?除籍謄本,族譜,墓碑
4.2?B家の事例
4.3?D家の事例
5?ローカルな場における死の意味づけ
5.1?虚偽の作法
5.2?事実を銘記する
6?経験知の生成と実践
第2部?沖縄戦と台湾2・28事件
第5章?沖縄戦の「戦後処理」と「戦死者の戦没者化」
1?戦場体験を記述することの困難さ
2?「一般住民」に対する援護法の拡大適用
3?「運命共同体的な関係」への転換
4?強いられる戦場体験の書き換え
5?戦死の意味づけをめぐる工夫
5.1?戦死者から「戦没者」へ
5.2?翻弄される戦死の意味づけ
5.3?国民国家イデオロギーと対峙する場の構築
6?「戦没者化」をめぐるせめぎあい
第6章?台湾2・28事件を書き残す営み
1?行方不明以後の家系記録
2?台湾2・28事件と「過去清算」
3?国境をまたいだ南西諸島出身者の移動
3.1?沖縄と台湾をつなぐ生活圏
3.2?台湾2・28事件に遭遇する
3.2.1?Yの事例
3.2.2?MとZの事例
4?負の連鎖を乗り越えて
5?家系記録に書き残された台湾2・28事件
5.1?除籍謄本,位牌,厨子甕
5.2?「2・28」という記号
5.2.1?「非琉球人」の死後処理
5.2.2?「台湾暴動事件」から「2月28日」へ
6?継承される行方不明の記憶
終章?過去克服への取り組みとローカル・リアリティ
1?再編される死者間の構図
2?せめぎあう国家のナラティブと民衆の経験知
あとがき
初出一覧
引用文献
索引
欧文要旨
ハングル要旨
高 誠晩[コ ソンマン]
立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員。
1979年済州島生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学,博士(文学)。済州4・3研究所,大阪市立大学人権問題研究センター,立命館大学生存学研究センター等を経て,現職。専攻は歴史社会学,文化人類学,東アジア研究。
内容説明
済州島4・3事件―3万人もの島民が軍や右翼に虐殺され、反共体制下の韓国で語ることもタブーとされた事件に、ようやく国家が謝罪し、真相究明と補償がなされた。しかしそこで生じたのは、誰を慰霊するかを巡る新しい差別であった。沖縄戦や台湾での事件にも触れながら、国家による大量死の「犠牲者」が国家によって認定されるポリティクスに迫る。
目次
「移行期正義」と「大量死」の意味づけ
第1部 済州4・3事件(死者から「犠牲者」へ;記念施設をめぐる記憶のポリティクス;公的領域における「大量死」の意味づけ;家系記録から読み直す虐殺以後)
第2部 沖縄戦と台湾2・28事件(沖縄戦の「戦後処理」と「戦死者の戦没者化」;台湾2・28事件を書き残す営み)
過去克服への取り組みとローカル・リアリティ
著者等紹介
高誠晩[コソンマン]
立命館大学衣笠総合研究機構専門研究員。1979年済州島生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学、博士(文学)。済州4・3研究所、大阪市立大学人権問題研究センター、立命館大学生存学研究センター等を経て、現職。専攻は歴史社会学、文化人類学、東アジア研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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