内容説明
独立直前のケニア。反英国・反白人のマウマウ戦争下の混乱の中で魂の成長をとげる少年。ノーベル文学賞候補グギ・ワ・ジオンゴの自伝的デビュー小説。
著者等紹介
宮本正興[ミヤモトマサオキ]
1941年、兵庫県生まれ。1964年、神戸市外国語大学英米学科卒業。1969年、京都大学大学院文学研究科言語学専攻博士課程単位取得退学。同年立命館大学助教授、1985年大阪外国語大学教授を経て、中部大学国際関係学部国際文化学科教授。同大学院国際人間学研究科長。1976年、アフリカ文学研究会を創設、その会員となる。大阪外国語大学図書館長、日本アフリカ学会会長などを歴任。大阪外国語大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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hiroizm
17
一九五〇年代の英領ケニアを舞台に、英国植民地から独立する発端となった紛争「マウマウの反乱」に関与したある家族の悲劇を十代の少年の視点で描いた物語。少年の父親は第一次世界大戦、異母兄は第二次世界大戦に出征していて、戦死している兄もいるという設定にまず興味をかき立てられた。第一次大戦では後方支援だったが、第二次大戦では植民地兵も前線での戦闘に加わっていて、その過酷な体験が「何のために戦ったのか?」と自己の存在理由を問うきっかけとなり(続)2021/08/12
ヘラジカ
16
大学近くの古書店で発見した掘り出し物。アフリカ文学はアチェベの『崩れゆく絆』に次いで二冊目だが、これもまた素晴らしい作品だった。テーマとしては『崩れゆく絆』に似ているかもしれない。流石ノーベル文学賞有力候補と目されていただけはある。アフリカ文学集中月間を設けた際にはもう一度読み直したいと思う。2014/06/28
きゅー
12
イギリス支配への抵抗運動が始まった頃の激動のケニアが舞台。支配者の白人と、非支配者の黒人の対立ということであれば簡単な話かもしれない。しかしグギは彼らを善と悪として単純に分けたりはしない。白人入植者は自らが土地を開拓したという誇りを持ち土地に固執する。同じ黒人どうしでも階級差によって対立している。ひとりひとりに思いがあり、譲れないものがある。グギは彼らに再生の道を示さない。光のないところに人々は立ちすくんでいる。あまりに濃い闇のなかで、私はこの物語をどう扱えばいいのか途方に暮れてしまう。2015/03/08
ころこ
9
黒人の暴力は亡霊のようだ。それは彼ら自らつくり出したのではなく、白人の亡霊を追うことで彼ら同士が衝突する、亡霊は彼らの目指す方向を見失わせています。終盤に印象的なシーンがあります。暴力と憎しみの連鎖にある当事家のふたり、俊英の主人公ジョローゲとガールフレンドのムイハキが失意の中会います。ここまでで、お互いの父親が双方によって殺されています。ジョローゲは周囲の期待のまま生きてきて、巻き込まれて挫折します。ジョローゲは街を捨てて、ムイハキと一緒になろうと迫ります。しかし、ムイハキは憎悪と混乱の文脈の中で、ジョ2017/06/28
kaze
8
作者グギの自伝的小説。「教育こそすべて」と信じて、一家と村の期待を一身に背負って勉強に邁進していたジョローゲが、教育に対する希望も信仰も明るい未来を信じる心も、そして愛も何もかも失ってしまった最後が本当に本当に絶望的だ。 巻末の付録と訳者あとがきを読んで、ケニアの歴史や植民地支配の巧妙さを知ると、ますますイギリスが許し難い。 2023/09/07