出版社内容情報
西洋への小さな窓として時代をリードした、桂川家の次男として生まれた異色の蘭学者・森島中良=戯作者・森羅萬象を中心に描く、大都市江戸の新気運。都市の文化論を背景に、明治維新へとつながる江戸時代なかばすぎの社会の実相に迫る。 ★★★読売新聞評(1994年6月20日)=「解体新書」の翻訳者の一人として知られ、戯作者、狂歌師、外国通として江戸学芸の世界の中心にあった森島中良にスポットを当てる。平賀源内、大黒屋光太夫との交流は興味深い。★★★歴史読本評=政治・経済・文化の中心点・江戸における、知的な交流場として機能した桂川家の歴史と、桂川甫斎の評伝ではあるが、そこで展開される世界はまさに「大江戸万華鏡」であり、江戸時代の都市文化誌ともいえる。★★★歴史と旅評(1994年7月)=本書は、道楽の家桂川家の通人として生きた森島中良の知的遊戯人ぶりを描きつつ、政治的には封建世界にありながら近代的文化サロンを形成していた桂川家の世界を描出する。★★★ ●●●「はじめに」より=ここに主役として登場する戯作名を森羅萬象、あるいは萬象亭と称する人物は、一般には異色の蘭学者として森島中良の名前がもっともよく知られている。また、狂歌名を竹杖為軽と称して、江戸時代も半ばすぎ、いわばこの国の転換期をむかえる時代に狂歌師として自由奔放、まさに歌舞伎の隆盛にならって、変化自在に生きた人物でもある。しかも、将軍に仕えるオランダ流外科を奉じる御典医・桂川家の次男としてめぐまれた出自にあり、いわば本名である桂川甫斎と名のることもあった。種々の名前をもつことからも想像できるように、彼は自ら多様に変化をこころみながら各分野に博識多才であり、人間交際もひろく行動的な奇才であった。代々敏才にして好学の学者を輩出した桂川家は医学だけでなく、多分野に多彩でゆたかな人間関係をもっていたことで、当時の江戸在住の蘭学者や文人墨客たちが残した史料のうちにも、断片的ながらその名を見いだすことができる。このように、萬象の体内には桂川家代々の紅い血が多彩に織りなしながら流れている。そのために、当時の桂川家について語ることは、同時に、変化自在な萬象個人の全体像に迫り、その思想と行動について、何ほどか語ることにつながるであろうし、また、その逆も真理となりうる。さて、この国の近代を歴史的に語るとき、18世紀後半にあたる宝暦から天明期がひとつの架橋になると位置づけられて、すでに久しい。この時期、蘭学の家としての桂川家は第三代国訓のもとに孝子甫周、中良の兄弟をむかえて隆盛にあり、彼らは江戸芸苑の世界に新気運をもたらすひとつの契機を生みだした。当時としては、オランダ流外科を奉じる御典医でありながら学芸に傑出した兄・桂川甫周国瑞こそがその主役であったが、本書ではその背後にあって忠実な黒衣に徹した弟・森島中良=森羅萬象が舞台の主役を演じることになる。彼には来たるべき新世界を広角に透視する魚眼レンズにも似た好奇の目がそなわっていたのである。それは名家の次男坊の醒めた目であり、冷静沈着な複眼をもった奇才としての眼光を放つものであった。本書は江戸芸苑のキー・ステーションとなった桂川家の知的周縁を森羅萬象、萬象亭の小宇宙を通じて垣間みたい。それは同時にきらめく大都市・江戸の知的な万華鏡の世界でもある。●●● 【主要目次】▲▲第1章・家業としてのオランダ流医学---桂川家の人びと=桂川家のながれ--始祖・甫筑邦教と祖父・甫筑国華/交厚かりし人--父・甫筑国訓/天性逸群の才--家兄・甫周国瑞 ▲▲第2章・変化の世界に生きる---戯作者・森羅萬象=常ならざる人--戯作の師・平賀源内/戯れる人--戯作者・森羅萬象の素顔/変化の人--萬象亭・戯作のはじまり ▲▲第3章・連を結ぶ人びと---狂歌師・竹杖為軽=狂詠する人--狂歌界の竹杖為軽/見立あそぶ人びと--江戸狂歌界と宝合会 ▲▲第4章・江戸から世界を視る---蘭学者・森島中良=何ともつかぬもの--江戸随筆・雑話の隆盛/かりそめなるもの--「紅毛雑話」の世界/志を同じうする人びと--オランダ正月と大黒屋光太夫/寛談かわす日々--江戸蘭学者と長崎屋/世界へのひろがり--森島中良の世界認識 ▲▲第5章・江戸芸苑の世界---都市文化の頒布者=とおり者たち--十八大通・森羅萬象/近代への胎動--おわりに
内容説明
『解体新書』の刊行は、医学ばかりでなく、日本の〈近代〉を予感させるものであった。その翻訳にたずさわった桂川甫周と森島中良の兄弟は、江戸の蘭学だけでなく、戯作や狂歌を通じて、この〈時代〉を知的にリードするサロンを形成した。
目次
1 〈家業〉としてオランダ流医学―桂川家の人びと
2 〈変化〉の世界に生きる―戯作者・森羅万象
3 〈連〉を結ぶ人びと―狂歌師・竹杖為軽
4 江戸から〈世界〉を視る―蘭学者・森島中良
5 江戸芸苑の世界―都市文化の頒布者
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