出版社内容情報
ホメロス以来のヨーロッパ英雄史観をくつがえす快作と評されたシリーズ第4弾。アレクサンダー大王を題材にした表題作「糸杉の墓」のほかに、「王者の宝石」「トロイのヘレナ」と、「ヨーロッパの身勝手東洋史観」などエッセイ5編を収録した。 ■■■中山千夏氏=これは、ていねいな歴史考証という土台の上に、戦争を体験した女の無念と、物語を愛する心とで構築された、もうひとつのギリシャ神話です。古代のなかから、「今」が鳴り響いてくるでしょう。■■■女性=今までの日本人の書いた本にないスケールの大きさを感じる。そして日本人的センチメンタルな表現がないことがすばらしい。■■■女性=まるでアリスが鏡の国に迷い込んだようにギリシャ神話の世界に入り込んでしまった。とてもすばらしい幻想の世界。■■■男性=30年前、ギリシャ悲劇とギリシャ神話を読みふけったことがありますが、こんなにリアルな存在感を抱いたことはありませんでした。■■■男性=きわめて煩瑣な史料の検証をふまえての流麗な表現・展開がすばらしい。■■■女性=時と空間を越えて、すべての女性に共感を覚えさせるものでありましょう。■■■男性=男性中心の社会の愚かさ、醜さに対する痛烈な批判は、そのまま現代社会に対する批判として読むことができると思った。■■■女性=一気に息をつく暇もなく、面白さに魅かれて最後のページまで来てしまいました。夕飯の支度をしなければならないことを思い出して真っ暗な部屋の中に立ち上がりながら、私は、これこそ“女の一生”と呼ぶのにふさわしい物語ではないかと考えました。どうかこのご本が、あまりにも小ぢんまりと小さくまとまりすぎてしまった私たちの世界観に新しい風を、というより地震を引き起こしてくれますようにと祈っています。■■■ ●●●「私のクリュタイムネーストラ」より=20年近くも前、私はカイバル峠を訪ねた。スレイマン山脈の山間を、20数キロにわたって、うねうねと続いているこの峠道に1ヶ所だけ、谷間のはるか下と、そのすぐ上に並んで走る2本の道を見ることができる場所がある。下の道はアレクサンドロスが、その上の道はガズニー朝のマホメットが、インド遠征のために通った道である。ガイドはこの峠の歴史を聞かせてくれたが、私は彼がアレクサンドロス大王と呼ばず、ジンギス汗にも汗という称号をつけないことに気がついた。「私たちは普通アレクサンダー・ザ・グレイトと呼んでいるわ」と私が言うと、彼は軽蔑するように唇をまげていった。「欧米人がアレクサンダー・ザ・グレイトと呼ぶことは知っている。でも我々にとって彼はグレイトでも何でもないよ。ジンギスやホワイト・フン(エフタル)と同じさ。この峠を越えて来て、略奪、虐殺の限りをつくした悪い奴さ。」この時はじめて、私はこの世の中には、民族や国によっていろいろの視点があることに気がついたのだった。考えてみれば、侵略した側と侵略された側で、アレクサンドロスの評価が違うのはごくあたりまえのことではなかろうか。それなのに、私たちはこの百年、侵略した側からのアレクサンドロスの評価しか知らなかったのだ。何と片手落ちだったのだろう。その時からであった。私がそれまでと違った目で世の中を見つめはじめたのは……。私は今でもこのパキスタン人の一言に感謝している。もし彼のヒントがなかったら、私は今でも、ローマのコロッセオ(円形劇場)をローマ文化の栄光と思い込んでいただろう。そして私があえてヨーロッパの定説と全く異なったクリュタイムネーストラ像を創造したのも、その根底にガイドの一言があったのではなかったろうか。●●● 【主要目次】▲▲小説=糸杉の墓/王者の宝石/トロイのヘレナ ▲▲エッセイ=「オデュッセイア」に見る女たちのモラル/アフガニスタンの渓谷にて/私のクリュタイムネーストラ/ヨーロッパの身勝手東洋史観/明治終焉--母本間美枝子の死
内容説明
糸杉の墓;王者の宝石;トロイのヘレナ;エッセイ(「オデュッセイア」に見る女たちのモラル;アフガニスタンの渓谷にて;私のクリュタイムネーストラ;ヨーロッパの身勝手東洋史観;明治終焉―母本間美枝子の死)
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