出版社内容情報
●●●本書「はじめに」より=チャールズ・ダーウィンは19世紀末に「ある生き物が遺伝的にすぐれていることを示す規準は、それがいかに多額の金もうけをさせたか、ということである」との意味の意見を述べている。また、現代は、国家が学問の振興のため便宜をはかり、優秀な人材を集めているので、その人びとは、研究材料として各種の適した生物を選び、驚くほどの成果をあげてきた。しかし、きのこは多額の金もうけに向かなかったので、ダーウィンの規準による興味も引かなかったし、遺伝学的研究材料として都合のよい材料とも考えられなかった。そこで、一部の変人とアマチュアをのぞき、一生の仕事としての興味に没入する人が少なく、その研究は今まで多かったとはいえない。そして、菌類とくにきのこの実体に対する理解は、今も、一般に稀薄である。しかし、この30年あまり、きのこが農村の重要な作目としてさかんに栽培されるにつれ、その育種にも目が向けられ、きのこの遺伝学、育種学の入門書が求められるようになった。本書はこのような背景で書いた一冊である。したがって、農村できのこ栽培に従事している若者にも理解できるように、限られた紙数のなかで、中程度のレベルで解説した。そのため、遺伝学として重要な事項であっても省略することがありながら、遺伝のしくみの理解のためには、生活史の解説を必要とし、発生の分野まで何程か含むことになった。遺伝学の知識を一応もっている方々にはたよりないかもしれないが、高等学校程度の生物学しか学んでいない読者には、菌類の概念と遺伝学の入門から、分子生物学にいたるまでの概説書としても利用していただけるように内容を組み立てたつもりである。きのこの遺伝学そのものについては、今までの研究が、もっぱら交配型因子の機能と構造に向けられてきたので、それらを中心にせざるを得なかった。また、実際の育種に対しては、系統立った技術が開発されているわけではないので、筆者が用いている方法を幹にして述べた。この方法が一般に利用されれば、著者としてたいへん嬉しいことである。きのこの遺伝学は、とくに交配型因子の働きに焦点があてられて、知識が集積されてきた。そのため、他の動植物の遺伝学にくらべると、非常にかたよった内容のものになっている。このような理由や、各項目を読み物としての観点から配列したということから、教科書としては、整理に欠けているように見えるかもしれない。読者には、第1ページから読み進んで、全体を理解していただきたいものである。●●● 【主要目次】▲▲第1章・きのこを生ずる菌類 ▲▲第2章・きのこの生活史=菌の非個体性と生活史/体細胞核分裂/減数分裂/生殖法/栄養生殖/有性生殖 ▲▲第3章・ヘテロタリズムとホモタリズム=交配/ヘテロタリズムとホモタリズム ▲▲第4章・遺伝の法則=メンデルの法則/連鎖と連鎖群 ▲▲第5章・交配型因子の機能と構造=交配型の決定と交配型因子/二極性/四極性/交配型因子の機能/交配反応/因子表示法とB因子のきめ方/ヘテロカリオンの復核化は可能か/交配型因子の機能図/交配型因子の構造と新因子形成/交配型因子の複合遺伝子座/染色体交叉と因子の構造/突然変異と交配型因子の機能/交配型因子の機能に影響するその他の要因 ▲▲第6章・ブラー現象[復単交配]=交配組合せ/正規交配型組合せにおける核選択とそのしくみ/不正規交配型組合せにおける核選択とそのしくみ ▲▲第7章・単核性発茸 ▲▲第8章・遺伝子発現の分子的しくみ=遺伝子と核酸/DNAの構造/染色体の構造/DNAの複製/遺伝情報/転写と遺伝子の構造/翻訳/ミトコンドリアの遺伝子 ▲▲第9章・遺伝子と突然変異=遺伝子/突然変異/突然変異の誘発/染色体突然変異/突然変異誘起原/DNA修復/光回復/除去修復/突然変異遺伝子/栄養要求性突然変異/その他の突然変異/遺伝子記号と遺伝子型の書き方 ▲▲第10章・育種=育種の原理/育種の原理/連続的変異をする特性値の記載/特性値のばらつきとその分析/遺伝力と選抜の効果/遺伝的変異の拡大/群内交配/群間交配(菌株間交配)/ダイ-モン交配(復単交配)/突然変異誘起/選抜/群内交配からの選抜のモデル実験(偏差値の利用)/ダイ-モン交配によって作出した復核菌株からの選抜(主成分分析の利用)
内容説明
菌類の概念と遺伝学の入門から、分子生物学にいたるまでの概説書としても利用していただけるように内容を組み立てたつもりである。
目次
きのこを生ずる菌類
きのこの生活史
ヘテロタリズムとホモタリズム
遺伝の法則
交配型因子の機能と構造
ブラー現象〔複単交配〕
単核性発茸
遺伝子発現の分子的しくみ
遺伝子と突然変異
育種