出版社内容情報
★★★東京新聞評=「動物文学」幻の名著の復刊。犬だけでなく、著者が身近に飼育した狼・ジャッカル・タヌキなどの犬科の野生動物、ハイエナ・ジャコウネコ・クマなどに深く踏み込んだ観察記録とエッセイ。★★★ ●●●本書「序」より=私が犬とともに狼等の野生の種族をも実際に飼育し、犬科動物の研究に専念するようになったのは昭和五年の秋からで、私はこの時、幼年時代から持ちつづけていた犬に対する愛情をさらに科学化し、生涯の仕事の一つとする道へもはいったのである。当時私はしばしば単なる猟奇人として見られ、思わぬ誤解を被るようなことさえあったが、時日の経過とともに、人類文化の一面に重大な役割を有する「犬」の基礎的研究に進もうとする私の熱意は、ようやく了解されるにいたった。けだし、近縁の動物との比較検討なくして、犬の実体は決して把握することができないからである。いうまでもなく、犬化動物の研究は特別に新しいものではなく、家犬の祖先の探究というようなことも、多くの先覚によって真剣に試みられてきたのである。が、従来のそれは概して形態的方面の論究に片寄り、生態的方面の観察にはなお遺憾の点が少なくなかった。というのは、その対象とする野生の種族、狼、ジャッカル等は敏速な夜間の活動を常とし、自然の棲息地において観察するのが困難をきわめるばかりでなく、これを孤独な拘束状態に移せば、肝要な群棲する本然の習性を見ることのできぬという不利不便に遭遇するからである。そこで、残された唯一の道は、ともかくも、できるだけ多数の動物を、できるだけ自然の状態で飼育するということに帰するのである。私の採った方法が必ずしもこの条件に適合するものとは思えないが、しかし、少なくも、それに近からんとして努力したことだけは事実である。すなわち、数頭の動物を一定の区画内に放し飼いにするようにしたのである。そして特記せねばならぬのは、この飼育観察によって、私は、多数の旅行家ないし狩猟家が単に敵として外側から眺めていたものを、かえって友としてその内面まで知りえたという一事である。これはまさしく、この方法の恩恵と勝利であり、同時にまた、私の日常、動物に対して抱きつつある感慨とも一致するのである。●●● 【主要目次】▲▲第1章・手記=縞ハイエナ/月の輪熊/麝香猫素描 ▲▲第2章・随筆=犬の英知/猛獣/狼を飼う/狼と食物/狼の眼/馴れた狼の話/狼と山犬の弁/犬狼雑記/赤狼/熊狩の話/狸汁/動物の色彩/動物の予感/フランスの狼狩 ▲▲第3章・考証=主人に殉じた犬の話/狼の伝説/狼の跳躍/熊の母 ▲▲第4章・研究=犬科動物の習性/生態観察より見た犬の祖先/どうして犬はワンワン吠えるか/犬と狼との間生の記録/犬の習性に関する一考察/犬は肖像を解するか
内容説明
「犬」をもっと知るために、狼・ジャッカル・狸など犬科の動物をはじめ、ハイエナ・ジャコウネコ・クマなどを身近に観察・研究することから生れた「動物文学」の幻の名著、復刊。
目次
手記(縞ハイエナ;月の輪熊;麝香猫素描)
随筆(犬の英知;猛獣;狼を飼う;狼と食物;狼の眼;馴れた狼の脇話;狼と山犬の弁;犬狼雑記;赤狼;熊狩の話;狸汁;動物の色彩;動物の予感;フランスの狼狩)
考証(主人に殉じた犬の話;狼の伝説;狼の跳躍;熊の母)
研究(犬科動物の習性;生態観察より見た犬の祖先;どうして犬はワンワン吠えるか;犬と狼との間生の記録;犬の習性に関する一考察;犬は肖像を解するか)