出版社内容情報
政策実施段階に入った、日本での環境評価のあり方を、具体的な評価手法で提示する。
経済学・工学・農学などの領域を超えて、環境評価の現状を概観するとともに、六種類の個別事例を用いて環境評価研究の最前線を紹介する。
【書評再録】
●WWF(世界自然保護基金)評(1999年4月号)=紹介される評価の事例も具体的で、調査したデータをいかに評価へつなげていくかがよくわかる。まだ確立されているとは言い難い環境評価の手法を、親しみやすく、また確かなものにする一冊になりそう。
【内容紹介】本書「はしがき」より
近年、環境を社会経済的に評価する手法の研究がいちじるしく進展している。顕示選好法として分類されるトラベルコスト法やヘドニック価格法、あるいは表明選好法として分類される仮想評価法(CVM)やコンジョイント分析など、さまざまな分野で多くの研究が世界的に蓄積しつつある。一方で、たとえば環境アセスメント、LCA、環境指標、環境勘定、環境会計の分野における環境の評価は、自然科学的、物量的評価にとどまる場合がほとんどであった。
しかし、現在、自然科学的評価と社会経済的評価の接合が重要な課題になってきている。このような状況のなかで私たちは、環境の社会経済評価分野の日本における研究の状況と到達点を確かめ、あらたな発展に寄与することを目的に「環境評価神戸ワークショップ」を1998年6月20日に神戸大学にて開催した。このワークショップには、研究者、行政担当者、企業、一般市民など幅広い層から総計160名の参加があり、活発な議論が展開された。このワークショップは次のような点で大きな意義を持ち、また画期的なものであった。
まず、本ワークショップが近年、公共事業の見直しをはじめとして、これまで実施されてきた政策の再評価に対して社会的な関心が高まっていることを背景にして行われたという点である。環境政策や公共政策を実施する上でその効果を示すことが問われているが、自然環境や社会資本の持っている価値は通常の市場では評価されにくく、政策の社会的効果を示すことは容易ではない。そこで、少なからぬ価値を持つ自然環境について貨幣単位による評価をおこない、社会的意思決定に反映させていくことは焦眉の課題だと言える。すなわち、環境を社会経済的に評価することは、もはや研究段階にとどまるのではなく、政策を実施する上での重要な課題となったのである。
第二に、これまで環境評価研究は経済学・工学・農学などの分野でばらばらにおこなわれていたが、このワークショップでは各分野で活躍している研究者が集い、意見交換や議論の総合化に向けた交流が持たれた。それぞれの分野で抱える課題の多くが共通したものであることが認識されると同時に、環境評価手法が多様な形で社会的に貢献することがあらためて確認された。
本書はこのワークショップの成果をまとめたものであり、本書の執筆者はいずれも環境の社会経済評価の第一線の研究者であり、しかも経済学・工学・農学などの個別の領域を越えて学際的な観点から環境の社会経済評価のあり方を問うという点で、類書には見られない新規性を持っているといえよう。
私たちは本書をきっかけとして、環境評価に関心のある研究者、行政担当者、企業、一般市民などが互いに連携し、環境の社会経済評価を社会に定着させていくことで、これまでの産業中心型の社会の見直しと新たな環境保全型社会への発展に貢献できることを期待している。
【主要目次】
▲▲第1部・サーベイ編
▲第1章・環境問題と環境評価=環境評価とは何か/環境経済評価への期待/環境の経済価値/環境評価の制度化
▲▲第2章・環境評価の現状と課題--CVM、コンジョイント分析を中心に=はじめに/CVMとコンジョイント分析の概要/環境評価への適用可能性/残された研究課題
▲▲第3章・社会資本整備の費用便益分析と環境評価=はじめに/社会資本整備がもたらす効果の計測方法/費用便益分析における環境評価の適用事例/顕在化したデータによる評価が一番/顕在化データで計測可能な存在価値/おわりに
▲▲第4章・CVM評価額の政策的解釈と支払形態--農林業のもつ公益的機能評価への適用=はじめに/支払形態の分類/評価事例/おわりに
▲▲第2部・評価事例編
▲▲第1章・流域水環境の生物多様性の経済評価=はじめに/CVM調査の概要と質問形式の改善/計測結果/辞書式選好の理論とその検証/むすび
▲▲第2章・油流出事故の沿岸生態系への影響--コンジョイント分析による評価=はじめに/油流出事故の環境評価/調査の方法/アンケートの実施/評価アプローチ/分析の方法/分析結果/まとめ
▲▲第3章・都市域の水辺環境の評価=はじめに/水辺環境の経済的評価手法/水辺環境の評価/おわりに
▲▲第4章・リスクの認識と情報提供CVMによる洪水保険購入意志額の評価=はじめに/洪水リスクの認識と対策/洪水保険支払い意志額の評価/データ収集/アンケート回答結果/回帰分析の結果/結論
▲▲第5章・シナリオに含まれる暗黙の前提とCVM評価値=はじめに/暗黙の前提による問題点/暗黙の前提による影響の調査/調査データ:北海道札内川の価値についてのCVM調査/暗黙の前提についての考察/今後のシナリオ設定改善のために
▲▲第6章・農村アメニティ政策の費用負担と便益評価=はじめに/農村アメニティ政策と費用負担/CVMによる農村アメニティの便益評価/おわりに
内容説明
公共事業の見直しなど、これまでの政策の再評価に対して、社会的に関心が高まっている。政策実施の上での、その効果への問いかけは、もはや研究段階にとどまらず、政策実施のうえでの重要な課題となった。サーベイ編と評価事例編の二部構成で、環境評価研究の展望と具体的な評価手法を紹介。
目次
第1部 サーベイ編(環境問題と環境評価;環境評価の現状と課題―CVM、コンジョイント分析を中心に;社会資本整備の費用便益分析と環境評価 ほか)
第2部 評価事例編(流域水環境の生物多様性の経済評価;油流出事故の沿岸生態系への影響―コンジョイント分析による評価;都市域の水辺環境の評価 ほか)
感想・レビュー
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