内容説明
フランス19世紀の小ロマン派のボレル―。医学史上に名高い近代解剖学者ドン・ベサリウスを主人公に、グロテスク風に潤色された作品を渋沢龍彦の名訳で贈る一篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
109
イロニーを主成分とする文学の原形質的な物語。フランドル人め!人喰い鬼め!異端者に死を!…罵る群衆や修道士たちの叫びに囲まれた邸では、花嫁が色男と踊り、花婿の博士は親戚の娘を口説いている。祝福さるべき結婚を辛辣に覗き見る実験箱の中で、老ベサリウスの情熱的な弁舌は虚しさゆえに却って力強く響くのだ。美しいカスティリヤ女と骨張ったミイラの如き老学者の床入りは、死臭漂う合歓図として愛でられ、間欠的にくり返す若妻の不貞も腐敗の花を添える。が、そこで夫が解剖学者であることを忘れてはいけない。ああ、結婚はかくも厳粛なり。2019/10/10
吉岡
5
[狼人ボレル] ファウストよろしく、実際の人物をモチーフにした作品という建前だろうが、その本質は僅か数行に表した主人公への自己投射。 それはイエスを殺し、コロンブスを嘲笑した市民への嘲笑と怒り。 つまりボレルの厭世的、反社会的性分を実は十二分に表した作品。 2014/10/13
猪子
3
先に読了した猟奇博物館にて紹介されていたので図書館より。量的には本当に短編ですが、見事な起承転結。実在の人物に対してここまで大胆なフィクションもすごいです。(実は史実?)2014/08/26