感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
門前照二
5
闇に憑かれ妖女と戯れる作家上田周二。寡作ながらその特異な作品世界に心惹かれるものがあります。『闇の扉』は彼の魅力をいかんなく発揮した処女短篇集。巻頭の「迂回」は主人公の男が、次々と現れる亡霊じみた女に翻弄される話。多くの伏線を張りながらそれを全く回収しない、およそ筋らしい筋のない短篇です。闇への愛が熱っぽく語られる「潜行の時」。こちらは夜の秘密クラブが舞台でフランスの幻想短篇に似た軽妙な味わいです。表題作「闇の扉」は賽の河原を模した情景を描く幻想小説。夢に現れる不確かな象形を可能な限り写し出した名品です。2012/05/23