内容説明
真っ直ぐな言葉の連なりが織り成す微妙な色合い。読むほどに人と人との間の心の綾が身に沁みて、少しだけ人生が愛おしくなる―そう、小説ってこういうものだった。長い沈黙のトンネルの果てに、作家がたどりついた新境地!
著者等紹介
増田みず子[マスダミズコ]
1948年、東京に生まれる。東京農工大学農学部卒業。77年、「死後の関係」が新潮新人賞の候補となり、小説家としてデビュー。その後「個室の鍵」「桜寮」「ふたつの春」が連続して芥川賞候補(その後も合わせて計6回)となる。85年、『自由時間』(新潮社)で野間文芸新人賞、86年、『シングル・セル』(福武書店)で泉鏡花賞、92年、『夢虫』(講談社)で芸術選奨文部大臣新人賞、2001年、『月見夜』(講談社)で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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minazuki
22
秋山駿氏が彼女の最初の作品を「群れずに暮らす夜行性の小動物のようだ」評した。私もそんなところにひかれて読み続けてきたが、いつのまにか目にしなくなった。そして、久々に発行された「小説」。2008年から2020年雑誌に発表された、小説・エッセイ13編。小説家になりたいと思った子供のころから72歳の現在までが語られている。/15年間短大・大学の小説創作講座で教えていたとか、キックボクシングや短距離走をはじめて心身ともに健康になったとか、意外な面もみられた。これから書かれるもの読みたいような、もういいような…2020/12/28
抹茶モナカ
20
私小説になるのだろうか。両親が認知症になって、という話から、妹の死、ジム通いの話と、時系列で読むと、自分の母親の愚痴を聞いているみたいな気分にもなるくらいの生活臭がする。小説を書けなくなってからの、自分と小説の距離感の話、夫との生活の居心地の良さ。書いている内容は、全短編ほぼ同じだけど、何故か読みやすいので、読み通した。でも、どうなんだろう。これは、以前、活躍していたから、出版できた本ではないだろうか。知らない作家さんだけど、過去作を遡って読みたくなりはしなかった。2021/03/27
だいふく
10
エッセイ集の『理系的』を先に読み始めていたけれど、増田さんの小説を読んだことがなかったので、急遽図書館で借り、最初の作品「女学生」を読んで引き込まれてしまった。私小説なのでエッセイとの違いは何?と思いながら読んだけれど、『理系的』よりも家族や知人への本音が語られていて興味深かった。内容は同じことを繰り返しがちだったけれど。2021/10/30
belle
9
書店の新刊棚の前で「あっ。えっ。増田みず子!」となった。単行本が出版されるのは久しぶりのようだ。ここ12年ほどの間に書かれた文章が集められている。小説のような。エッセイのような。作家も区別がつかないらしい。内容は後半が明るくなる印象。体を動かし声が大きくなる。そして作中にもあるように、自由になって行くのがありあり。月並みだがやはり心と体は繋がっているのか。最後の題名は「小説」。どこまでが小説?「シングル・セル」の頃とは違う?60年変わらず持ち続けた夢のひとつはやはり、小説を書くこと、だった。2021/01/10
かつみす
8
ずっと前に読んだ『シングル・セル』や『禁止空間』が、まだ手元にある。書店で作者の名前が目に飛び込み、タイトルへの興味もあって即購入。事情があって10年近く書けずにいたとのこと。大半は私小説風のエッセイなのだが、これが素晴らしい。幼い頃から変わらない、小説への熱い思い。自分を支えてくれる人たちへの感謝の念。そんなことを飾らず伝える文章の、なんと生き生きしていることか。少しずつお年寄りの仲間入りをしていくのに、長くて暗いトンネルを抜け、明るい所に向かっていくような幸福感。その心持ちに、読んだ私も満たされた。 2020/11/28
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- 和書
- 英文学者夏目漱石