出版社内容情報
「これを、漆喰に混ぜて塗れ」
依頼主から左官に渡されたのは小さな白磁の壺。
仕事は「ある家」の外壁の塗り直し。
「家の中には入ってはならん」
何が見えても聞こえても。
熊本県荒尾市。かつての炭鉱と競馬場と干潟の町。
雨が降れば、土地に染み付いた念が湿った煤の匂いとともに立ち昇る。
町のそこかしこに潜み、たたずみ、彷徨う黒い人。
「夜行堂奇譚」の著者が故郷を舞台に描く、奇怪な幻燈のごとき怪異譚。
これは、鬼の話である――。
・「囁く家」
漆喰の塗り直しを頼まれた左官。そこは入った者の命をとる死霊憑きの家
・「ひそむ鬼」
離れの床下には鬼がいる…鬼の写真を撮ることにとり憑かれた伯父の家の秘密
・「箪笥の煤」
抽斗を開けた者は肺を病んで死ぬ。祖母が弔う祟りの桐箪笥の由来
・「ヤマから響く声」
亡き叔母の日記。そこに綴られたのは庭の井戸と黒い人に纏わる恐怖の記録
――ほか11の忌み話
内容説明
「これを、漆喰に混ぜて塗れ」依頼主から左官に渡されたのは小さな白磁の壺。仕事は「ある家」の外壁の塗り直し。「家の中には入ってはならん」何が見えても聞こえても。熊本県荒尾市。かつての炭鉱と競馬場と干潟の町。雨が降れば、土地に染み付いた念が湿った煤の匂いとともに立ち昇る。町のそこかしこに潜み、たたずみ、彷徨う黒い人。「夜行堂奇譚」の著者が故郷を舞台に描く、奇怪な幻燈のごとき怪。これは、鬼の話である―。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょろこ
126
怖い、だけとは言えない一冊。熊本県荒尾市。炭鉱の歴史が眠る地に彷徨う"黒い人"にまつわる怪異譚。まえがきから惹きこまれ、一話目からけっこうゾクっときた。著者が取材を元に書き綴ったという11の怪異。"黒い人"の背負った歴史を知ると、怖いだけじゃ終わらない、どこかせつなさを感じずにはいられなかった。全身は真っ黒、目だけが白い姿となって、ただ知って欲しい、この地でどんな歴史が刻まれ哀しみが埋もれているのかを知って欲しい、その念の強さが伝わってきたからかな。情景描写もあとがきも良かった。何もない土地なんて、ない。2024/04/27
yukaring
115
何も足さない、何も引かない。ありのままの事実を淡々と語る語り口が妙に味のある怪談集。「仮に、○○さんとしておく」というフレーズから入る構成もとてもテンポよく読みやすい。著者の出身地である熊本県荒尾市。かつて炭鉱で栄えた町には真っ黒な人がいる。雨の日には土地に染み付いた念が黒い人となって彷徨う、そんな日常を地元の人々は「業のない場所などない」と淡々と受け入れるその静かな諦念にはゾッとさせられる。庭の井戸と黒い人に纏わる恐怖の記録『ヤマから響く声』ほか鬼の話11話。果たして本当の鬼とは誰のことなのだろうか?2024/04/26
タイ子
95
これは鬼の噺である。本当に鬼だったのか。読前と読後の物体に対する思いが大きく違ってくる。怪談と言うには怖くなく鬼談というには哀しみさえ漂う物語。福岡県大牟田市、かつては三池炭鉱として名を馳せた炭鉱町。今は閉山になり、廃れていく町に起こる怪奇な11の実話。仏壇の魂入れを住職に依頼した夫婦が玄関で見た黒いもの。住職が対応し去って行く不気味な正体。この話が本書の全てを表しているようで切なくなる。恐怖の体験をしたにも関わらずその土地を去らない町民たち、誰もが過去の歴史を受け入れる包容力?優しさ?なのだろうか。2024/05/03
かぷち
79
熊本の荒尾周辺エリアを舞台にした怪談集。荒尾というと競馬場(2011年に廃止)が有名で馴染みはあった。炭坑の町だったんですね。ホラーは好きだが話の都合上架空の地名を用いたりする場合が多く、怪談は実在の場所が出てくるので恐怖を煽る。人が生活する場に怪異は生まれ、人がそれを見聞し流布する。怪談は人間と共に成長するが、時の流れと共にやがて忘れ去られる。ここに私は凄く魅力を感じていて、なにかノスタルジックな気持ちになる。怪談とはその土地の歴史でもある。願わくば風化させず伝承して欲しい、それが供養にもなるのでは。2024/05/20
aquamarine
77
仮に、〇〇さんとしておく。で始まる11の物語。かつての炭鉱の町熊本県荒尾市を舞台としたいわゆるモキュメンタリーホラーなのだが、それぞれの話からじわじわと過去にあったことが少しずつ見えてくると、文の中に湿った煤の匂いがし、背後に真っ黒な人型の気配を感じ…うっかり没頭していて我に返ったときぞっとした。こんな悲しいところには私は住めない、と思いながら読み進めていたところ、ある住職の言葉に身が凍る。「業のない場所などありませんよ。その土地の過去と向き合う他はないのです。」私が住んでいるこの土地は……2024/07/09
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