内容説明
ディストピアに希望を探れ。文学という枠を越え出て、政治や社会のあり方、あるいは日常生活の襞にいたるまで、今やあらゆる領域へと越境し増殖を続ける『一九八四年』の世界。動物、ジェンダー、情動、“ポスト真実”やポピュリズムといった多様な観点からの精読や、受容史やアダプテーションなど関連作品の分析を通してこの文学的事件の真価を問う。今と未来を生き延びるための『一九八四年』読解。
目次
ジョージ・オーウェル―いくつかの個人的なつながり
「普通の人びと」への希望―『一九八四年』とポピュリズム
家父長制批判としての『一九八四年』?
抵抗についての注釈
『一九八四年』における愛と情動
鳥とネズミのあいだ―『一九八四年』における「人間らしさ」と動物たち
日本における『一九八四年』の初期受容
改竄される『一九八四年』―冷戦初期の映像三作品と原作、そしてオーディエンス
舞台化された『一九八四年』―三つの脚本
ポスト・トゥルースの時代のオーウェル―カクタニとローティによる読解
オーウェルからアトウッドへ―「フェミニスト・ディストピア」が描く未来への希望
著者等紹介
秦邦生[シンクニオ]
1976年生まれ。東京大学大学院准教授。イギリス文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
105
プーチンは偉大な兄弟の如く国民を対ウクライナ侵略戦争に駆り立て、トランプは公然とニュースピークを唱え、中国はウイグルを愛情省と真理省で統治する。『一九八四年』の刊行から70年余の現在、オーウェルの作家的想像力に現実がようやく追いついたようだ。恐ろしいほど身近に感じてしまう予見性に戦慄するが、同時にこれほどの誤解と偏見と政治利用の嵐にさらされ続けた小説は他にない。なぜ人は真実から離れて、全体主義への道を進むのか。ある文学作品の受容プロセスから、複雑怪奇な世界を前に考えることを放棄する現代人の姿が見えてくる。2022/05/24
かふ
20
アトウッドの100分de名著のサブテキストして。そもそもこの本を読みたかったのはアトウッドのオーウェル体験の記事があったから。フェミニズムの視点から、中村麻美「家父長制批判としての『一九八四年』?」、小川公代「『一九八四年』における愛と情動」、加藤めぐみ「オーウェルからアトウッドへ――「フェミニスト・ディストピア」が描く未来への希望」が、オーウェルからアトウッドの流れだろうか?2025/06/18
kaya
3
オーウェルの『1984年』に関する論文集。様々な角度からのアプローチがあり、興味深い。数年前にドラマ化で話題になったアトウッドの『侍女の物語』がかなり『1984年』の要素を取り入れつつも新しい作品として昇華されており、評価も高いようなので是非読んでみたい。それにしても『1984年』はその内容の非情さにも関わらず、人々を惹きつけるキャッチーさがあると再認識した。今後も読まれ続け、人々の話題にのぼり続ける作品であることは間違いない。2024/01/08
takao
0
ふむ2025/06/12