内容説明
思いがけず暗闇で目が光る能力を手にした語り手が、密かな愉しみに興じる表題作「案内係」をはじめ、「嘘泣き」することで驚異的な売上を叩き出す営業マンを描く「ワニ」、水を張った豪邸でひとり孤独に水と会話する夫人を幻想的な筆致で描く“忘れがたい短篇”(コルタサル)「水に沈む家」、シュペルヴィエルに絶賛された自伝的作品「クレメンテ・コリングのころ」など、ガルシア・マルケスはじめ“ブーム”の作家たちに多大な影響を与えたウルグアイの奇才による日本語版オリジナル傑作短篇集。
著者等紹介
エルナンデス,フェリスベルト[エルナンデス,フェリスベルト] [Hern´andez,Felisberto]
1902年、ウルグアイのモンテビデオ生まれ。若い頃からピアニストとして生計を立てるかたわら創作に励み、処女作『某』(1925年)を発表する。『クレメンテ・コリングのころ』(1942年)がジュール・シュペルヴィエルに激賞され、渡仏の機会を得る。同時期に発表された短篇集『誰もランプをつけていなかった』(1947年)が密かに作家たちの絶大な支持を獲得するも、生前は栄光に浴することなく、1964年にモンテビデオで没する
浜田和範[ハマダカズノリ]
1980年、東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。現在、慶應義塾大学ほか非常勤講師。専攻、現代ラテンアメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
111
大きな屋敷の暗い廊下を、左右が歪んで見える眼鏡をかけて歩き、行き着いた扉を開けるとフーディーニがショーをしている…そんな世界で繰り広げられる短編たち。奇術のあとは最後にパンと手を叩いて目を覚まさせてくれる。そこはまだ妙な廊下ではあるけれど。頼みは想像力。『フリア以外』が一番好き。作者はウルグアイが生んだ奇人で、彼がパリで出会った三番目の妻となる女は、トロツキー暗殺者のかつての恋人だった。先日読んだ『犬を愛した男』で、暗殺者が暗殺者となるための動機であった女性。彼女についてもっと知りたくなった2019/08/17
かわうそ
29
とりとめなく連なるエピソードが本筋なのか寄り道なのかそもそも本筋があるのかどうかもよくわからない。さっぱり方向性が見えない変な話が多いんだけど、「変」の質感がいままで読んだことのある変な話とちょっと違うというかなんというか。お気に入りは「水に沈む家」「フリア以外」「緑のハート」あたり。2020/06/23
おおた
17
タイトル、いきものがかりぽい。どこかで聞いた名前と思ったら福武文庫の『エバ猫』に入っていた。シュペルヴィエルが絶賛するだけあって、シュルレアリズムがかった幻想譚はもろもろに崩れやすそうな世界を描く。エバ猫にも入っていた「水に沈んだ家」がおもしろくて、基礎は大丈夫かなと心配になりつつも、謎に包まれた大きな女主人を載せてボートを漕ぐシーンはとても映像的。いろんな作家が褒めたというけど、夢の中でままならない日常にちょっと困る、感じの地味な話なので、多くは期待しないが吉。2019/11/16
Mark.jr
5
かのItalo Calvinoから「誰にも似ていない作家」と評されたウルグアイの作家Felisberto Hernandez。多くの作品に自伝的要素が含まれているらしいですが、最大の特徴はどこかぎこちなく継ぎ接ぎ感のある文体でしょう。著者の目を通すと普通の景色や記憶でも異化されてしまうという点では、Bruno Schulzに通じる異能の作家と言えます。2021/07/27
刳森伸一
5
ピアニストとして生計を為し、40代から小説家に専心したというウルグアイ出身の異色の作家による短篇集(傑作選)。ガルシア=マルケスは高く評価したらしいが、マルケスと比べると地味な印象で、シュールレアリスムの影響なのか、モヤモヤと夢と現(うつつ)の間をウロウロするような感じ(あくまでも感じ)の話が多い。個性的で他に類を見ないという評価には同意するが、それが面白さに繋がっていないことも…。そんな中でも、静謐な雰囲気の中で語られる幻想譚「水に沈んだ家」などは忘れがたい佳作だと思う。2020/03/11