内容説明
不可能性への挑戦という人間の根源的欲求とその衝動のありかを、ゴシック文学の傑作『フランケンシュタイン』に探る。メアリー・シェリーはなぜ19世紀に“自然魔術”を再登場させたのか?錬金術・魔術、科学、自然の崇高、二重の生、ゴシックなどの主題をめぐり、ヘルメス思想を淵源とするあらゆる学や思想の観点から、現代エソテリシズム研究文献、文学批評を渉猟しつつ『フランケンシュタイン』を読み解き、ロマン主義の科学と思想の未踏の領野を照らしだす分野横断的研究。
目次
序論 『フランケンシュタイン』とヘルメス主義の伝統
第1章 エソテリシズムとロマン主義
第2章 生明の創造―錬金術・アグリッパの自然魔術・ヘルメス思想
第3章 科学と魔術
第4章 崇高・神秘主義・二重の生
第5章 ゴシックとエソテリシズム
第6章 氷と火―ヘルメス思想における自然と想像力
結論 魔術的“知”を求めて―作品におけるヘルメス思想
著者等紹介
田中千惠子[タナカチエコ]
1957年、兵庫県に生まれる。首都大学東京大学院人文科学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専攻、イギリス・ロマン主義文学、精神史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
53
『フランケンシュタイン』をエソテリシズムやヘルメス主義の立場から解読した一冊。フタンケンシュタインというとその生命創造という立場から狂科学者のイメージが強いのだが、本書は文中からその本質がむしろ錬金術師の伝統に近いという事を明らかにしている。この部分と『フランケンシュタイン』内部にヘルメス思想が息づいている事を明らかにした部分は、まさに本書の白眉。その他にもロマン主義的な崇高や情熱の概念とか、ゴシック小説、自然魔術等読んでいて興味を覚えない箇所は無かった。本書を下敷きにしてもう一度読み直してみたいなあ。2015/12/16
mittsko
7
小説『フランケンシュタイン』を、その中に現れる錬金術・魔術に注目し、それをエソテリシズム、ヘルメス思想の流れに位置づけることで読解する。長大な思想史、心性史のなかに一つの物語作品を、ロマン主義文学という運動を位置づけるだけでなく、むしろ逆に、物語と文学と藝術においてこそ最もよく顕れる、ひとつの思想・思考・心性の歴史を明らかにする。きわめて刺激的なこの試みを彩るのは、非常に美しい、惚れ惚れする文体と体裁だ(14年の博論を15年刊)。端的にいって 著者は博学多識な美文家でいらっしゃる。人文知のエレガンスよ!2019/01/19