出版社内容情報
悪人がいるわけではないのに、みな善意の人であるのに、みな日々の営みに精励する人なのに、だのに苦労がある。いや苦労ではなく苦悩だ。みな愛し愛されているのに頭上に澄み渡った青空はない。曇天の、しかし、静かな日常。その静かさのなかに苦悩を沈めている。愛があるのに、ではなく、愛があるから苦悩があるのだろうか。人が人と別れるのは、人が人に惹かれるからであろうか。人はなぜ人に惹かれるのだろう。(千石英世「解説」より)
著者生誕100年&没後10年記念出版!
小島信夫のすべての長篇小説を網羅するシリーズ、第1回配本。
連載期間12年半、全4000枚。夫婦・親子・男女の愛の錯綜と混沌を凄絶なまでに描き尽くし、旧来の小説の方法を悉く破砕する伝説的問題作、著者随一の超大作にして日本文学史上に異彩を放ち続ける現代文学の極北。
*
『別れる理由Ⅰ』では、主人公・前田永造とその家族に流れる静かな日常が、ゆるやかに、しかしとりとめもなく綴られる。やがてあきらかになる、亡き妻・陽子との波乱の日々、後妻・京子との心の懸隔、そして恵子との不倫関係……。他人の女を抱いてなお、愛する妻をひたぶるにいとおしまずにいられない、男の切なる想いとは?
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tonex
3
「小島信夫批評集成」全8巻と「短篇集成」全8巻に引き続き、ついに「長篇集成」が始動。今の時代にこういうマニアックな出版企画が実現することに驚き。本文は以前単行本で読んだがあまり面白くないので、月報と解題・解説のみ読んだ。12年6カ月にわたる長期連載について、解説に《今日の流行語に換言すれば、何の「罰ゲーム」だったのかということにもなりかねない》と書いてあったのが面白かった。書くのも、読むのも、出版するのもほとんど罰ゲームのような小説。連載中は作者と編集者と校閲者の3人しか読者がいないと揶揄された問題作。2015/08/25
2
ほとんど存在そのものが日本文学にあるひとつの(そして大きな)クエスチョンをつきつけるものではあるが内容の方と言えば本当に退屈である(もちろん小島信夫の作品を読んで「面白い」という方もどうかしてるのだけれども)登場人物が馬鹿みたいなことで馬鹿みたいに騒いでいるそしてこれが驚くほど長くて読んでいると欠伸が出そうだけれどもむしろ後期に到るためのある種の「実験」であるとすれば納得も出来るのかもしれない。ということは間違っても小島信夫をここから読み始めるのはおすすめしない。2016/07/03
yoyogi kazuo
1
抱擁家族の続編として読める。人間関係がゴチャゴチャしてわかりにくいが、あまり考えすぎずにスイスイ読むのがよい。後のうるわしき日々のような後期作品を読む上でもこれを読んでおくと役に立つ。2021/06/20