内容説明
青春時代の思い出の断片から浮かびあがる亡霊のようなシルエット。かつての恋人の足跡を求めて、パリの街を彷徨するひとりの男。かすかな記憶の糸が、四十年の時を経て、恋人の生まれたベルリンへと誘う…モディアノらしさと、今までになかった新鮮さを味わえる記憶と夢想の物語。
著者等紹介
モディアノ,パトリック[モディアノ,パトリック] [Modiano,Patrick]
1945年、パリ近郊ブーローニュ=ビヤンクール生まれ。作家。2014年、ノーベル文学賞を受賞
小谷奈津子[コタニナツコ]
1971年、鳥取県生まれ。レンヌ第二大学でモディアノについての研究を始める。明治大学大学院博士課程満期退学。現在、明治大学ほか非常勤講師。専攻、現代フランス文学、フランス語学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たーぼー
66
過去の行動の反動が現在を飲み込むという危うい均衡の中に物語の主体が配置されてゆくこのモディアノ独自の忘却に抗する記憶の技法というものは、おそらく彼自身の自責、自己回復などの重要な体験を見つめ直す行為でもあったのだろう。青春時代に出逢った女性を40年の時間を経た今、探求することが果たして主人公にとって実りがあるものなのか、その先に幻滅はないのか、を考慮するのは読者に委ねられるが、取り返し得ぬ時間に対話を求め、精神の深奥をつかさどる情熱と執念に自らを展望しようという人間の在り方には深く感じ入るものがある。2017/05/18
ドン•マルロー
16
「時間の回廊」という言葉がひどく印象に残る作品だった。ストーリーは40年前に失った女性を捜しにいくという、いつも通りの典型的なモディアノ作品だ。時間の回廊とは、大都市の無関心・匿名性の中において、ほとんど運命的といっても良い劇的な作用によって、人々を結びつける通路のことをいうのだろう。しかしこの小説が示唆しているのは、閉ざされた通路が復活するように、再び同じ時間の回廊に辿り着けたとしても、決して当時の感情や関係性までは取戻せないという、人生の物悲しさについてなのだろう。2015/12/20
ぞしま
14
2010年作品。三人称語り。現在と60年代のパリが舞台、作者自身を彷彿とさせるボスマンスとベルリン生まれのフランス人、マルガレット、モディアノ作品によく見られる若い二人の過去からの無防備な脱出劇、失敗あるいは失踪、それを追う40年後。 いかがわしさ、いかがわしい人物たちは健在だが、やや希薄かも。モディアノ作品には珍しく最後に希望があるようなエンディングも意外でよかったが、マルガレットとバゲリアン(と秘書とボヤヴァル)のパートにえらいドキドキした。相変わらず何も分からない(通常運転)が、しごく良い。2022/01/02
kthyk
13
パリが舞台だが、今回はモディアノ特有の時間と空間の錯綜はない。主人公も「ぼく」ではなく「彼」。読者は時空間の中に入り込むのではなく、額縁の外から眺める物語。しかし、「記憶の芸術」がモディアノの方法、「彼」はノートに残された「記憶」のパリを歩き回る。錯綜も曖昧も押さえられ、20代を回想する物語だ。そして40年後、再開発された旧倉庫跡地のラ・ガール河岸が高層ビル街となったかっての地平線は、亡霊たちの「時間の回廊」。すぐとなり合わせているのに、ボスマンスとマルガレットはそれぞれ異なる時間の中を生きていくのだ。 2020/12/15
qoop
3
忘却の地平線へと沈んでいった過去の恋人が、のぼる朝日のように記憶の地平線から蘇る。現在だったものが過去になり、活動は停滞するものの決して失われることなく、休眠状態で保存され、そして涵養され続け、いつか必ず目を覚ます。休火山が噴火するように。それまでの人生を覆い尽くす記憶の存在に直面する重さ、そして潔さ。話は変わって、暴力を匂わせる展開の多い著者だが、直接的な描写は初めて読んだかもしれない。そこも本作の印象深い点。2016/03/11
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