内容説明
悲しいかな、私はもはや誰にも属していなかったのです。私は人類すべてに対して異邦人だったのです!十八世紀フランス革命のさなか、パリの貴族社会で愛に焦がれ、「悲恋」に存在を賭した黒人少女の、異色なる愛の告白小説。
著者等紹介
デュラス,クレール・ド[デュラス,クレールド] [Duras,Claire de]
ブルターニュ地方の由緒ある貴族を父に、マルティニク島の富裕な一族出身の女性を母に、1777年、ブレストで誕生。女子修道院の寄宿学校で教育を受けるが、フランス革命期にルイ十六世の処刑に反対した父が革命裁判所で死刑判決を受け、母とともに海外で亡命生活を送る。革命終結後、ルイ十八世に仕えるデュラス公爵と結婚、王政復古後はサロンの中心的人物となり、スタール夫人やシャトーブリアンらと親しく交遊、みずからも創作活動に従事する。1828年歿
湯原かの子[ユハラカノコ]
上智大学仏文学科卒。九州大学大学院、上智大学大学院を経てパリ第四大学文学博士号取得。フランス文学・比較文学専攻。上智大学非常勤講師。評伝作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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きりぱい
9
「知るという恩恵は、知らない方がよかったという願望によって代償を払わなければならないのです」と、奴隷にされる運命を救われ、愛され教育を受け、狭く閉じられた貴族社会の世界観になじんで育っただけに、自分は黒人であったという限界に気付かされ苦悩する告白体の小説。薄くて短い話で内容も小粒(何様)だけれど、デュラスと言っても『愛人』のデュラスより百年以上も前のデュラスで、主役に黒人を据えた小説というのはすごいのでは、と。フランス革命が背景にあり、自己喪失のモチーフも楽しんだけれど、結びがちょっと弱かったかな。2014/03/25
Mana
6
黒人の娘ウーリカは、セネガルから奴隷としてフランスへ連れてこられ優しいホヴォー夫人に引き取られ育てられた。歌を習い、絵を習い、英語、イタリア語を話し、ダンスを踊り、とても可愛がられて育ったので自分が黒人だということを気にしていなかったが、ある日突然本当の意味で黒人娘であるということがどんなことなのかを理解するようになる。作者は1777年生まれの貴族の女性で、この時代にこんな風に黒人女性の心の内を描いてみせたのはすごいことだと思う。彼女は他にも沢山の作品を書いているようなので、翻訳が増えて欲しい。2019/07/20
刳森伸一
3
1823年に執筆された、フランスで初めて黒人女性を主人公にした小説。奴隷としてセネガルから連れてこられたウーリカは、ホヴォー夫人に引き取られ、息子たちと共に白人(それも貴族)と同じように育てられるが、ある日、ウーリカは自身が黒人であり、白人とは同等に扱われないことを知り、苦悶する。小粒ではあるものの、当時としては先進的な思想がうかがえ、興味深い。2020/03/12