出版社内容情報
争いは人類の避けられない宿命なのか。
それをすこしでも減らし、和らげるために、いかなる方法があるか--。
来たるべき世界をよりよくするための、ささやかな一石となりうる一冊。
平和主義はしばしば、少なくとも短期的には敗者になります。現在の勝利は、好戦的な人にあたえられる傾向があります。これは、平和は存在しないと言っているのではありません。平和は強大な力であり、芸術や商業、社会が栄えるためには必須の条件です。ただ、その存在は目立ちません。平和とは夜吠えない犬のようなものです。そのため、宗教的戦争について議論したときよりも、より細かな状況を、より詳細に見ていくことが大事になります。(本書「Chapter 5 平和を祈る」より)"
本書は、時代は古代バビロニアから二十一世紀のテロリズムまで、場所は日本からスーダンまで、文字どおり世界じゅうの事例にふれて、宗教と戦争について考える、非常に幅広い視野をもったものです。いろいろな国の戦争が次々と出てくるので、争っているのはどういった国なのか、戦争にいたるまでにどういった時代背景があるのかということを理解しないと、読み進めるのがなかなか大変かもしれません。そうした背景などはできるだけ注で解説しているので、参考にしてみてください。
こうした歴史的な知識は、けっしてわたしたちの現在の状況と無関係ではありません。
二〇二〇年代に入り、世界の情勢はますます不安定化しており、日本で暮らしているからといって無関係ではいられません。その不安定な情勢には宗教も確かに関与しており、二〇二二年のロシアのウクライナ侵攻にはロシア正教会が関与しており、二〇二三年のイスラエル・ハマス紛争の背景にあるパレスチナ問題にも宗教の影響があります。二〇二六年に起きた米国とイスラエルによるイランへの攻撃とその後の中東情勢についても同様です。
ただし、その関わりは、第2章の「宗教が戦争を起こす」というものとは大いに異なっています。本書を読んだ人は、これらの出来事には、宗教が第何章のかたちで関わっているのかをぜひ考えてみてください。そうした考察をすることによって、世界で起きている出来事をよりリアルに理解することができるでしょう。
本書は宗教と戦争というテーマについての案内であるとともに、さらなる学習への招待状でもあります。読んでいて興味をもった時代や地域、宗教などがあったら、さらにくわしく調べてみて、世界をすこしずつ広げていってください。
そうした試みをつづけていけば、人類の避けられない宿命である争いと、それをすこしでも減らし、和らげるための方法について、とても大事なことを学べるはずです。
(本書「訳者によるあとがき」より抜粋)
【目次】
謝辞
Chapter 1 戦争を記憶する
カルバラーの殉教者――過去も現在も、そしてこれからも
犠牲の十字架――第一次世界大戦の記念碑
ゴーストダンス
意味と喪失
Chapter 2 聖戦を起こす
戦士の神――古代世界の戦争と宗教
ジハード――個人的な奮闘努力か武力闘争か
イスラム教の創始と征服
カリフ制と安定化
近代――分裂と再評価
十字軍と宗教戦争
その他の聖戦
聖戦――聖なる戦争と、聖ならざる戦争
Chapter 3 非宗教的戦争を神聖化する
太平洋戦争における日本の神道と仏教
共同体のあいだでの戦争
コソボ神話
北アイルランド――植民地か教派主義か
スーダン
ナイジェリア
スリランカ――人為的な対立関係?
結論――信仰なのか旗なのか
Chapter 4 戦争の恐怖を和らげる
『マハーバーラタ』と戦争の道徳的緊張
イスラム教の軍事法
キリスト教伝統における正戦
参加と近代化――交戦国の平和的な宗教集団
戦争を穏やかにするのか、あるいは戦争を容認しやすくするのか
Chapter 5 平和を祈る
仏教の平和主義
ジャイナ教
マハトマ・ガンディー
バシャ・カーン
平和構築へのリベラルなアプローチの限界
現代ムスリムの平和構築
コンスタンティヌス以前のキリスト教
コンスタンティヌス以後のキリスト教の平和主義
カドゥナ
結論
Chapter 6 宗教と戦争について問いかける
概念と分類
宗教は戦争を起こすのか
この両義性がどんな回答をあたえてくれるか
宗教者の視点の必要性
宗教と戦争についての考えの前提
戦争の目的とその終わり
訳者によるあとがき/参考文献/さらに読みたい読者に/索引



