出版社内容情報
原発事故の放射能汚染を過小評価し、安心・安全を植え付けようとする自治体と、子どもたちのために立ち上がる市民たち。開高賞受賞の著者が、故郷・福島県伊達市の実態とそこに生きる人間を描く。
黒川 祥子[クロカワショウコ]
内容説明
福島第一原発から50キロ離れた伊達市には、風にのって多量の放射性物質が降り注いだ。避難できる家と避難できない家の格差を生む政策で、分断される市民の心。先進的に取り組むはずの除染事業は失速。行政は「心の除染」を強調するようになる。不安の中、子どもたちを守るため立ち上がる市民たち、引き裂かれた地域社会を修復するため奔走する若き市議会議員…伊達市出身のノンフィクション作家が、被曝に揺れる故郷を描くヒューマン・ドキュメント!
目次
第1部 分断(見えない恐怖;子どもを逃がさない;特定避難勧奨地点 ほか)
第2部 不信(「蜂の巣状」;小国からの反撃;公務員ですから ほか)
第3部 心の除染(家族を守るために;放射能に負けない宣言;除染交付金の動き ほか)
著者等紹介
黒川祥子[クロカワショウコ]
1959年福島県生まれ。東京女子大学卒業後、弁護士秘書、ヤクルトレディ、デッサンモデル、業界紙記者などを経てフリーライターに。2児をもつシングルマザーとして、家族問題を中心に執筆活動を行う。『誕生日を知らない女の子虐待―その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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のんき
83
福島県伊達市には、原発事故後、放射性物質が降り注ぎました。街は行政の理不尽な線引き(「特定避難勧奨地点」)によって、「避難できる人」と「避難できない人」の格差を生みます。政府や県や市に、子どもたちを守ろうとか、地域の人を守ろうという気持ちが全然ありません。自分の身は自分で守るしかない、それが残念ながら今の日本の社会。避難できる人でもお友だちと別れて転校したくない。逆に避難できない人は、子どもも産めない、ガンで死ぬ。と子どもたちに言わせるなんて。そんな辛い思いをさせてごめんなさいとしか言えませんでした。 2018/09/15
おかむら
44
福島県伊達市の住民に密着したルポ。原発からは離れてるけど風向きで汚染されてしまった地域。線量を気にしながら毎日くらすということのしんどさ。同じ町内で賠償金をもらう家と全く出ない家が混在するという理不尽さ。政治的思惑で除染の方向性を変えた自治体。気にしすぎとモンペ扱いまでされる保護者。読んでてやりきれない思い。住んでる場所や家族構成や性格や、一人一人違ってるのは当たり前なのに被災者で一括りにしてしまって簡単に寄り添うとか言ってはいけない気持ちに。2017/05/03
竹園和明
38
福イチの北西50キロ。伊達市は原発被害の報道ではあまり聞かなかった市だ。だが放射線量は高く、本来全避難をすべき場所。その判断を怠った市は、初動の遅れを県内初除染という論旨のすり替えで胸を張る。市民は不安に苛まれ、元気に遊んでいた子供達が失禁したりチック症を患うなど追い詰められた。子供を守る為に自ら除染作業を行う親達。補償対象となる家と外れる家。放射能と闘おう!と宣う市長。…よく暴動が起きなかったな。犠牲者に目を向けない政治家や役人は最低だ。それでも経済のため、地方にばかりある原発の再稼働は続くのだ。 2017/05/19
あやの
37
伊達市がこんなことになっていたなんて知らなかった。市長も、何でこんなこと言えるの?「市VS市民」だと公言してしまう所が恐ろしい。「除染先進都市」とは、外部への受けを良くするための空疎なものであり、市民の心は完全に置き去りに……賛否あったが、飯舘村や南相馬市の対応の方がよほど市民感情に寄り添っていたのでは。伊達市はすべて国や県の意向に従っていたように見える。元はと言えば原発事故が悪いのだが、そのせいで、こんなのどかな町で、無用のいさかいが起きて、多くの人が傷ついてしまった。この事をみんな知るべき。2019/02/02
きみたけ
34
著者は開高健賞受賞のノンフィクション作家黒川祥子さん。東日本大震災に伴う原発事故により、多量の放射性物質が降り注いだ福島県伊達市。当初、独自の方法で除染を進める「除染先進都市」として注目を集めました。しかし、行政や関わる有識者は、不安を抱える市民に対してなぜか放射能汚染を過小評価し、安心・安全を植え付けるような対応に終始しました。なぜ私の故郷は除染を止めてしまったのか。子どもの未来のために闘う人々を9年かけて克明に追った意地のノンフィクションです。庭の土を入れ替える涙ぐましい努力が印象的でした。2021/05/13