出版社内容情報
ヒトの睾丸はチンパンジーより小さく、ゴリラより大きい。この事実は何を物語っているのか。さらに、現代は「上下関係」のないゴリラ社会ではなく、「序列重視」のサル社会に移行していると警鐘を鳴らす。
内容説明
なぜ家族は必要なのか。「勝ち負け」のないゴリラ社会、「優劣重視」のサル社会。人間社会はどちらへ向かう?
目次
第1章 なぜゴリラを研究するのか
第2章 ゴリラの魅力
第3章 ゴリラと同性愛
第4章 家族の起源を探る
第5章 なぜゴリラは歌うのか
第6章 言語以前のコミュニケーションと社会性の進化
第7章 「サル化」する人間社会
著者等紹介
山極寿一[ヤマギワジュイチ]
1952年東京生まれ。京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。カリソケ研究センター客員研究員、(財)日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手を経て、京都大学大学院理学研究科教授。1978年よりアフリカ各地でゴリラの野外研究に従事。類人猿の行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ばりぼー
52
ゴリラは喧嘩をしてもじっと見つめ合って平和的に和解し、序列を作らないという特徴があるが、サルは勝ち負けを明確に作り出し、純然たるヒエラルキーを構築する。人間社会はどちらの要素も備えているが、個人の利益と効率を優先する現代の人間は、平等を重んじるゴリラ的価値観を無くし、勝者を讃えるサル的階層社会に突き進んでいる。「家族」という形態が人間社会の根幹をなす集団単位であり、コミュニケーションのための「共食」の習慣が消え、「個食」に取って代わられると家族は崩壊、人間性は喪失される…。示唆に富む良書です。2016/01/18
としちゃん
34
著者は日本の霊長類研究の第一人者で、京都大学総長。平等よりも勝ち負けを優先するサルの世界と、群れの中で序列を作らず、勝つとか負けるという概念がないゴリラの世界。今、人間社会は勝者にならないといけないかのような意識が蔓延し、勝者が弱者を支配するサル型の社会になっていると、この本は警告する。もともと人間は、見返りを求めず弱いものには手を差し伸べ、何かをしてもらっらお返しをし、そうして集団の中できちんと居場所を持って生きていく動物であり、そうやって進化してきた。その事をあらためて思い出させてくれる本でした。2017/05/26
Speyside
32
大晦日の村上ラヂオに出演されていて、話がとても面白かったので、著書を読んでみる。前京大総長にしてゴリラ研究の第一人者である著者が研究の変遷を紹介しながら、ゴリラを鏡に人間について考察するエッセイ。ゴリラとヒトは共通の祖先を持ち1200〜900万年前に枝分かれした近縁種。なので、ゴリラの生態を解明すれば初期人類の特徴、ひいては現生人類に引き継がれた人間性の根幹のようなものを解明できるのではないかという視点がまず面白い。ゴリラはサルと違って集団内に序列がなく、優劣の意識がないらしい。人間もゴリラに学ぼなきゃ。2021/02/09
空猫
22
霊長類の社会を調査することによって人類学を研究したもの。家族とは食を分け合い、同じものを一緒に食べる事で始まる関係である。それが無ければ社会での平等はありえない。ゴリラは家族を作るが共同体を作らない。サルは序列のある共同体を作るが家族のように愛着はない。そこには効率や利便しかないのだ。ヒトは家族と共同体を持つ唯一の動物である。個食、独居が増えて[サル化]している現代日本に警鐘を鳴らす一冊。面白い視点で楽しめた。講義を聴いているようなわかりやすい文章。2016/09/14
Sakie
21
ゴリラおもしろい。同じ霊長類でも、ゴリラとサルと人間では性質も社会性も違っている。ゴリラは優劣のない社会をつくる。サルは厳密な階層社会をつくる。ゴリラは相手の目を見て意思疎通する。サルが相手の目を見るのは威嚇するとき。ゴリラは総じて温かくて感情豊かで繊細だ。さて、家族という集団をつくる人間。個食が社会問題として浮上した頃の文章だろうか。食事を家族で分け合うのではなく、買って一人で食べる時代になり、家族という仕組みの崩壊を予見して、山極さんは人間の未来を憂える。もっとゴリラ読みたい。ゴリラの歌聴きたい。 2019/06/21