内容説明
香港に存在した高層高密スラム「九龍城砦(クーロンじょうさい)」。一時はその名前が、人々を震え上がらせた。その「九龍城砦」も、もう存在しない。九龍城砦の住民は、最終的に一九九二年七月二日にその生活の場を強制退去という手段によって奪われた。本書は、その直後、著者が特別に許可を得て、十二日間延べ四十一時間にわたり九龍城砦に潜伏して調査を行い、最期の姿を写真に収めたものを集めたものである。
著者等紹介
中村晋太郎[ナカムラシンタロウ]
1969年長崎県出身。1985年シンガポール日本人学校中学部卒業。1988年長崎県立長崎北陽台高校卒業。1993年東京理科大学理工学部建築学科卒業。1993年三菱建設株式会社入社。会社合併により名称が変更し、現在は、株式会社ピーエス三菱に在勤
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感想・レビュー
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カナン
58
最期の名に相応しい、完全に色を失った屍がその弛緩した内部をぽっかりと晒している。埃っぽく乾いた白と、じっとりと染み込んだ黒、ふいに網膜を焼く文字や見返しの紅。城は蜘蛛の巣のように巧緻な図を描き、龍のように悠々と蜷局を巻きながら、宛ら世の無常を憂うように体内で蠢く工場の騒音を絶え間なく唸り声として吐き出していた。複雑に絡み合い垂れ下がる配管や電線は傷んだ血管だ。確かに此処は、「九龍」という名の生きた城砦だったのだ。ふと、ごうごうと時代の流れる音が聞こえる。生きとし生けるもの全ての血と鼓動の音に、眩々、眩暈。2018/03/25
鷺@みんさー
9
廃墟の写真も好きだが、こういうごちゃごちゃした生活感あふれる写真も好きなんだなぁ。大阪のアパートとか、軍艦島も廃墟写真も好きだけど、最盛期の貴重な映像や写真の方がさらに好きだった。
ののまる
9
白黒だから荒んだ感じにより迫力が。2016/09/25
misui
7
九龍城砦ははじめ清朝の砦として生まれ、アヘン戦争によるイギリス・清朝の政治的混乱から一種の主権空白地となって難民が流入した。無計画な建設のために街路は増殖し、最盛期には5万人の人口を数えたという。本書は強制退去後を撮したものであまり生活感はない。また、香港返還を前に公園として整地された姿も収める。2012/09/01
アルクシ・ガイ
6
人が住んでいる頃の九龍城も見たかった。2016/11/02