内容説明
水不足で悩む太行山の村を舞台に、中国の農村共同体千年の歴史と、80年代に生じた大変動を時にリアリスティックに時に幻想的に描き、農村、ひいては中国自体の存在の意味と可能性を問う話題作の待望の完訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キャンダシー
33
村の開祖である孫老二が、山西省の太行山地の山奥に老井村を開いたのは宋の時代。千年に及ぶ村の歴史は、安定した水源を求めての命懸けの戦い。でもなんと言ってもこの小説の見どころは、孫老二の末裔である孫旺泉と、その進取の気性ゆえにキツネ憑きと噂される趙巧英との恋愛模様。究極の田舎者である旺泉は、様々な事情から、積極的肯定的意志で幸福をつかもうとする巧英と、村からの脱出を思い切ることができない。旺泉に流れる高粱の赤い実のような村の千年の血の宿命が、彼の燃えるような飛び立つべき翼を永遠に散らせてしまっていたのかもね。2019/05/05
燃えつきた棒
23
6月4日の天安門事件27周年を前に、この本を読めたのは良かった。 長年水不足に苦しむ太行山麓の老井村の人々は、 旱魃で井戸が涸れると、水を求めてまた新たな井戸を掘る。 その過程で多くの男たちの命が失われていく。 それでも村人たちは、井戸を掘り続ける。 2016/06/01
乙郎さん
9
中国の作家による1985年作。小村における井戸掘りの状況から当時の中国社会が抱えていた問題点を浮き彫りにする。とても面白い。まずこのタイトルで訳文はかなりバブリー(90年邦訳)なのだが、それも都会に出ていた巧英という女性がトリックスターになっているからやむなし。この巧英というキャラクターがとても魅力的。恐らく登場人物それぞれに当時の中国が抱える保守性だったり、革新性だったりを仮託させているのだと思う。これでも天安門より前か…。2024/04/05
龍國竣/リュウゴク
0
著者は莫言と並ぶ中国マジックリアリズムの作家。莫言のような突拍子もない発想はないものの、地に足のついた物語に好感を覚えた。200頁ほどに、家族の系譜を軸に据え、千年の歴史が織り込まれ、現在の物語と交錯する。歌が重要な場面に挿入され、詩情を、神話性を高めている。2014/09/27
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