内容説明
本論文は、『釈軌論』を主な研究対象とする。なかでも、『倶舎論』と『釈軌論』との比較研究、乃至『釈軌論』と後期唯識論書との思想的なつながりを解明すること、それを第一の課題とする。このような作業によって『倶舎論』の作者世親が如何に大乗唯識思想家に転じるのかという世親の思想的な変貌過程が明らかになるであろう。
目次
1 世親研究のための予備的考察(世親の著作リスト;世親の“buddhavacana”(仏説)論
世親の解釈学的地平―密意(abhipr ̄aya))
2 縁起(prat ̄ityasamutp ̄ada)(「縁起」(prat ̄ityasamutp ̄ada)の語義考察
「~に縁りて」(prat ̄itya)と縁(pratyaya)
縁起の二句(pary ̄ayadavaya)をめぐって)
3 縁起と識の生起(「我」と「作用主体」―『勝義空性経』の解釈;「認識主体」―経典所説「識は識る」の解釈;「三世実有説」の再検討 ほか)