内容説明
いま社会の様々な場面で「話」が通じなくなってはいないか?人の話をよく聴いたり読んだりしないまま、適当に分かったつもりになって、特定のキーワードにだけパブロフの犬のように反応するお子様な人たち。知識人から2ちゃんねらーまで、こうした困ったひとびとの増殖は、何を背景として生まれ、社会に何をもたらすのか。「話」が通じなくなるその構造を、気鋭の研究者が哲学・思想的な観点から分析。お互いが抱える「卑小な物語」の枠を超え、真の意味での「対話」の必要性を説く、哲学・思想エッセイ。日本社会に蔓延する「話が通じない病」を撃つ。
目次
第1章 敵は「同じ言語」を語る(悪い「聴衆」;脈絡の見えない質問 ほか)
第2章 秩序なき「物語」の増殖(「歴史の終焉」?;「歴史」と「物語」の違い ほか)
第3章 噛み合わない論争(なぜ噛み合わないのか?;「とにかく反対意見を」の不毛 ほか)
第4章 「話」は通じるのか?(なぜ話を聴けないのか?;「聴く」能力は低下する ほか)
著者等紹介
仲正昌樹[ナカマサマサキ]
1963年広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究博士課程修了(学術博士)。金沢大学法学部教授。文学や政治、法、歴史などの領域で、アクチュアリティの高い言論活動を展開
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yamahiko
17
出版されて十年以上が経つが、話を聴けない人や、無責任に発言を垂れ流す人の割合は加速度的に増加していると感じる。自戒を込めて。2017/08/11
袖崎いたる
14
おそらく読者にとってブラック・ユーモアとして味わわれるべき本。なぜ話が通じないのかは、所謂「大きな物語」が終わったというポストモダンな言い方で説明されてる。「小さな物語」がモナドチックに社会に無数にあり、それぞれが二項対立のコードを内在してて、それにコミットする物語的自己同一性な自己たちが各自の物語に(そうすると楽なので)引き籠ってる――のがディスコミュニケーション現象のメタ記述、て感じ。読み取るべきは「分かりやすさ」が「面倒臭さ」や「難しさ」への入門であることをアイロニカルに意識することの大切さ…かな?2016/05/05
shishi
9
[B+]著者の具体的な「話が通じない」経験をもとに、コミュニケーションの不自由を論じている。他者批判が多いが、それを差し引いて読めば、文章作成や自分の意見を考える際に役に立つヒントが結構ある。短絡的な思考に陥らないためのヒント。話を聞けない人やある言葉に反射的に反応する人たちをパフォーマンスとして激しく揶揄して書いているので、好みは分かれそうだが、この文体に対して嫌悪感を抱く人は「ワン君」なのかも。先に「あとがき」を読んでから通読するといいかもしれない。もっと堅い感じの本かと思っていたけど違った。2013/12/16
ミツ
9
うむ。なかなか耳が痛く、勉強になった。全四章からなり、一章では著者自身の体験を元にしてエッセイ風に正しい「聴衆」と「抗議」のあり方について論じ、二章で少し学術的に現代思想の文脈から「小さな物語」の乱立状態について説明し、三章でイラク人質問題で噴出した自己責任論争や加藤・高橋間の敗戦後論争などを取り上げて具体的な論争のあり方を論じる。2ちゃんねらー、ウヨク、サヨク、とにかく人の話を聞かない、理解しない人々が批判の対象となっており、自分はそうならないように気をつけようと思った。2011/01/19
ががが
8
すばらしかった。思想面から「話が通じない」ことのメカニズムを具体的な事例を出しながら分析を深めている。大学の演習などでよく感じる議論の食い違いや不毛な論に陥るたびに感じていたモヤモヤがきれいに府に落ちてくる。また、読んでいく中で自分も相当「話の通じない人」になってるようなところもあったので本当に反省。自分が頭よくなったとか目立ちたいとか思ったらこの本を思い出したい。きちんと仲正先生のようなご鞭撻をする人の意見は黙って耳を傾けたい。2013/02/18