出版社内容情報
一新聞記者が描く「気候危機」取材30年の航路。
数々のグローカルな「現場」へ読者を誘い、気候・環境問題を等身大の視線で見つめる旅
私たちは「三つの見えない敵」に直面している。気候変動をもたらす人為的な二酸化炭素(CO2)、新型コロナウイルス、福島第一原発事故由来の放射性物質だ。
人類は、「他者の排除」を競い合うことで「文明」を創出してきた特異な生物だ。その競合本能は、今、地球生命圏全体を激しく蝕み、自らその存在を消し去る極限状態にあると言える。
本書は著者が東京新聞(中日新聞)社会部記者として取材した国連気候変動枠組み条約締約国会議や、沖縄県・辺野古の米軍基地移設問題など“現場”からの報告が中心になっている。
太平洋の島嶼国から米軍に入隊しイラク戦争で戦死した若者や、海面上昇で存続が危ぶまれる謎のナン・マドール遺跡(ミクロネシア連邦)、塩害に脅かされるフィジーなど、特別報道部時代に取材したものも含め、気候変動問題が経済中心主義や開発主義と密接に結びついている現況をあぶりだす。
欧州の気候変動政策を学ぶために留学したベルリン自由大学環境政策研究所やオックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所では、ベルリンの自由な雰囲気と、オックスフォードの帝国主義的アカデミズムを目の当たりにする。そこから英独の気候変動問題への根本的なアプローチの違いを紐解く試みも行っている。
SF作家小松左京氏やアニメ監督宮崎駿氏にも気候変動問題や生物多様性問題を問いかけた。この取材に応えて小松氏は地球史を見据えた人類の未来への対応、宮崎氏は次世代を見据えた等身大の取り組みの大切さを訴えている。
「ジャーニー」は家族との旅でもある。身重で英独で暮らし、ベルリンで長女を出産した妻や、現地校に通った小学二年生の長男の物語も織り交ぜた。
ジャーナリズムの仕事は、現場をさまよい、のたうちまわりながら真実を探るという一点に尽きる。そこには、不条理な現実やそれを乗り越える展望を発見し、知り、伝える使命がある。閉塞感から抜け出せない時代だからこそ、環境ジャーナリズムが持つ意義について、広く深く読者と共有することができればと願っている。(かば・としや)
内容説明
一新聞記者が追跡した気候・環境問題のグローカルな「現場」から、「気候危機」取材30年の航路。
目次
第1章 コロナ禍がもたらした「三つの敵」の時代(「コロナ」「温暖化」「放射能」の三重苦;グリーントランスフォーメーション(GX) ほか)
第2章 欧州の気候変動対策(ドイツ、イギリスへ留学;緑の首都ベルリン ほか)
第3章 太平洋諸国と環境問題(楽園パラオから戦地へ行く若者たち;ミクロネシアでも米軍入隊の戦死者が ほか)
第4章 ジュゴンとサンゴの危機(沖縄・辺野古問題でのジュゴンとサンゴ礁;海洋プラスチックごみ問題 ほか)
第5章 未来への提言(小松左京氏が遺した言葉「人類の叡智という希望」;宮崎駿監督の提言「半径三〇〇メートルに責任を」 ほか)
著者等紹介
蒲敏哉[カバトシヤ]
1962年名古屋市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒業。同大探検部時代は、未知の山岳民族・洞窟探査のためインドネシア領イリアンジャヤ(ニューギニア島西部)へ遠征。中日新聞(東京新聞)に入社(1987年)し、社会部で警視庁捜査一課担当、事件遊軍キャップ。パプアニューギニアの津波被害(1998年)、オーストリア・カプルンでのケーブルカー火災(2000年)、スマトラ島沖巨大津波地震(2004年)などを取材。環境庁の省昇格(2001年)に伴い環境省を担当。地球温暖化対策に向けた国連気候変動枠組み条約締約国会議、国連生物多様性条約締約国会議など多数の国際交渉を取材。2008~2009年、オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所ジャーナリストフェロー、ベルリン自由大学環境政策研究所客員研究員。東京新聞特別報道部デスク、宇都宮主幹支局長、東京新聞社会部二ュースデスク長の後、2022年3月退職。同年4月から岩手県立大学総合政策学部教授(環境政策、環境ジャーナリズム)。日本記者クラブ会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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