出版社内容情報
ローマ最盛期の詩人ウェルギリウス(前70~前19)が晩年の10年間に取り組んだ『アエネーイス』は、ギリシアの『イーリアス』『オデュッセイア』に比すべきラテン語最高の叙事詩として、すでに刊行前から上々の評判を得ていた。主人公のアエネーアースには時の権力者アウグストゥスの面影があるといわれ、作者の死によって未完に終わったこの作品は、アウグストゥスの強い意向を受けて出版された。
だが刊行されるやただちにベストセラーになった『アエネーイス』が、はるか後世のルネサンス期を超え、今日まで長く愛好された事実は、単に一権力者の強い推薦を受けたからというだけでは説明しきれない。むしろそれはひとえにこの作品が、歴史の転回点に立つ人間の諸問題を的確に捉え、つねに新しい読者を獲得する「読み物」としての魅力を、豊富に持っているからこそであった。たとえばアエネーアースはトローヤからイタリアまでの長い遍歴の途中、カルターゴーの女王ディードーとの悲劇的な出会いを経験するのだが、詩人が主人公を、魔女や妖怪などではなく、このような感性豊かな女性に巡り会わせた瞬間に、ひとりの個人の心に焦点をあてた新しい文学の地平が開かれたと言ってよい。作品は、「ローマ建国」を語るという叙事詩の大枠は守りつつ、戦争など人間集団が引き起こす厄災や、社会の課す重圧の下で苦しむ人々の姿を赤裸々に描いて、詩人の領分を大きく広げたのだ。
『アエネーイス』が長く読まれた西欧では、それは『聖書』を補完しつつ相対化させる、精神文化の重要な源流の一つであった。そこに溢れるローマ的心情、その言葉に反映するローマ的美、読むたびに生き生きと蘇る物語の世界は、これからも読者を魅了し続けるに違いない。
しかし日本では、『アエネーイス』は、「ホメーロスの模倣」であるという一時一部に行われた説の影響を受けて、タイトルの知名度に比して、作品自体の独特で無比の味わいは、今もあまり知られていないのが現状ではあるまいか。本訳はこの「誤解」を解き、『アエネーイス』をわれわれの古典とすべく、現代人が心から堪能できるような訳を試みた。(すぎもと・まさとし)
【著者紹介】
ローマ最盛期の詩人(前70~前19)
内容説明
ローマ建国を語るラテン文学最高の叙事詩『アエネーイス』。2000年の時を経て今新たな命を宿す。従来のウェルギリウス像・ローマ叙事詩観を一新する、散文形式による新訳の挑戦。ポンペーイー壁画以来の関連名画多数収録。
著者等紹介
ウェルギリウス[ウェルギリウス] [Vergilius Maro,Publius]
プーブリウス#ウェルギリウス・マロー。B.C.70‐B.C.19。マントゥア近郊のアンデースに生まれる。30歳の頃、『牧歌』で詩人として世に出る。『農歌』を時の権力者オクターウィアーヌスの前で朗読してローマを代表する詩人の地位を得る。生涯にわたって書き続けられた『アエネーイス』は、詩人の死によって未完に終わったが、破棄を望んだ詩人の遺志に反して出版されるや、たちまちベストセラーとなった
杉本正俊[スギモトマサトシ]
1949年岐阜市に生まれる。1974年早稲田大学第一文学部卒。同大学大学院(修士・博士課程)で志波一富教授に現代ドイツ文学を学ぶ。早稲田大学、駒澤大学、日本大学芸術学部等で30余年、非常勤講師としてドイツ語を教える(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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