出版社内容情報
ナチズムは絶滅政策だけでは解明できない―そのユートピア計画の系譜を19世紀思想史に辿り、ナチ思想研究の空白を埋める意欲作!
ヒトラーと第三帝国といえば、だれでも思いつくのは、アウシュヴィッツに代表されるユダヤ人の絶滅政策であろう。なぜヒトラーは数百万のユダヤ人を、かれらがユダヤ人であるということを理由に殺戮したのか。もしわれわれが絶滅政策の原因をそれ単独で考察しようとすれば、われわれは最後にはヒトラーの精神病理に、すなわちパラノイア(偏執的妄想)に、また国民の「権威主義的人格」(アドルノ)に辿り着くように思われる。しかしそれだけでは、われわれはナチズムの半面だけしか見ていないことになる。これまであまり着目されてこなかったとはいえ、ヒトラーにはユートピアといってもよいほどの積極的な政治構想が存在した。それはヨーロッパの政治・社会構造の革命と再編成をめざす「東方ゲルマン大帝国」構想である。そのためにヒトラーは東方では、西側での「西欧国家システム」の戦争と異質な、戦時国際法を無視した対ソ「絶滅戦争」に乗り出したのである。そしてユダヤ人絶滅政策はこの「ヒトラーの戦争」の不可欠な要素として、新帝国のゲルマン人種の純血性を確立するために実施されたのである。それはヒトラーがユダヤ人に対して抱いた「病的憎悪」に還元できるものではない。それではヒトラーは、こうした「東方ゲルマン大帝国」構想をどこから想いついたのであろうか。それはすべてかれの独創だったというわけではない。本書のテーマは、ヒトラーの積極的な政治構想の起原がどこにあるのかを、帝政ドイツの右翼イデオロギーや19世紀の「ドイツ東進運動」イデオロギーのなかに、また第一次世界大戦における東部戦線の国民的経験のなかに追究しようとしたものである。(著者 谷 喬夫)たに・たかお)
内容説明
世界支配を賭けた「生存圏」構想の来歴。絶滅政策と対をなすユートピア計画の着想を19世紀ドイツ思想のなかに丹念に辿り、「蛮行」の全貌を明らかにする政治思想史の挑戦。
目次
第1章 ヒトラーとドイツ東方支配の夢(ヒトラー政治構想の前提;ヒトラー東方政策の形成)
第2章 トライチュケの「騎士団国」イデオロギー(イデオロギーとしての「ドイツ東進運動」;トライチュケの『ドイツ騎士団国プロイセン』;騎士団イデオロギーの残響)
第3章 ハインリヒ・クラースのドイツ帝国改造論(クラースとヒトラー;全ドイツ連盟とその政治構想;全ドイツ連盟の思想的位置)
第4章 ハインリヒ・クラースの戦争目的論(第一次世界大戦と「戦争目的論」の公刊;クラースの「戦争目的論」)
第5章 プロイセン東部のゲルマン化―ドイツ・オストマルク協会とそのイデオロギー(ドイツ(プロイセン)とポーランド
ドイツ・オストマルク協会と反ポーランド政策
ハカティストの歴史認識とイデオロギー―D・シェファーとO・ヘッチュ
世界大戦とドイツ・オストマルク協会の終焉)
著者等紹介
谷喬夫[タニタカオ]
1947年前橋市生。中央大学法学部卒業。新潟大学大学院現代社会文化研究科教授。政治学・政治思想史専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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