出版社内容情報
かつて子どもたちは、町のなかでよく遊んでいた。毎日、放課後を楽しみにしていた。どの町にも子どもたちのたまり場があって、そこへ行けば遊び仲間がいた。何をして遊ぶかは、いつもの顔ぶれが集まったところで決めたものだ。ことあそびについては、すべて自分たちで決めていたし、だからこそ工夫してあそぶ楽しさがそこにはいっぱいあった。
あそび場は、子どもたちにとって、〈ものの見方、感じ方、考え方〉に学校よりも大きな影響を及ぼす、いわば「もうひとつの学校」であった。そして、「もうひとつの学校」は地域社会の懐のなかにあった。この「学校」が地域社会とともに衰退してしまったことは、子どもたちの成長にとって重大な影響を及ぼすことになった。地域社会のなかでのあそびを通して仲間や大人たちと交わることによって、獲得してきた社会的な諸々の力が欠落してしまった。また、自由なあそびのなかで学びの原点である、創造することや工夫することの楽しさを経験することなしに多くの若者が社会に出ていくことになった。
本書では、一九六九(昭和四四)年から一九七二(昭和四七)年にかけての「もうひとつの学校」の子どもたちを訪ねる。二百数十枚の写真とコメントによって、先に述べたことが子どもたち、ひいては社会にとっていかにかけがえのないものであったかをたどってみることにした。主な撮影地は、東京都内各地、川崎市などである。
折しも、この昭和の時代がクローズアップされている。そこには地域社会における人間関係の温もりがあったからだろう。だが、そのこととともに子どもたちにとっては、町のなかでの仲間とのあそびやそうした地域社会そのものが生きた学びの場であったことを、いまこそ再評価しなければならないだろう。(みやはら・よういち)
★汐見稔幸さん(東京大学大学院・教育学部教授)すいせん!★
子どもたちを巡る事件があとを絶たない。親と子の間にさえ緊張した関係が広がりつつある。どうしてこんなことになったのか。家庭が悪いのか、学校がだめなのか。
本書はその背後に本当は何があるのかを、実にリアルに、説得力をもって語ってくれている。子どもたちは、これまでの時代、本書に生き生きと写し取られているように、家庭と学校以外の「もうひとつの学校」でも育ったのだ。そこで、たくらむ、冒険する、工夫する、仕掛ける、協働する、反省する等々の行為を、それこそ身体ぐるみで体験してきた。
しかし、現代、自主性がもっとも重視されるこの貴重な「もうひとつの学校」を私たちは見事に失ってしまった。著者によると、この本のような子どもの姿はこの写真の十年後には全く見られなくなったという。子どもの育ちの困難が叫ばれ始めたのは、まさにその十年後あたりからなのだ。
戦後史とはいったい何であったのか、本書は、大人が見失いがちな、戦後史の盲点を実に鮮明に明らかにしてくれている。次世代育成や少子化対策に関わっている人にとって必読の書だ。
内容説明
昭和40年代半ばの「あそび」の世界から見えてくる創造と学びの原点。そして、地域社会の意味と大人の役割。
目次
空き地:道路
路地
公園
境内
工事現場
ゴミ捨て場
資材置き場
高速道路陸橋下
軒先
子どもたちの狭間
町の駐車場
デパート
駄菓子屋
川
池
溝
土手と船だまり
著者等紹介
宮原洋一[ミヤハラヨウイチ]
1941年生まれ。私立桐朋学園初等部に37年間勤務して初等教育に携わり、現在フリーの写真家。その間、町のなかの子どもたちを撮り続け、『教育の森』誌(毎日新聞社)に巻頭グラビアを連載するなど新聞、雑誌などに発表。また、フジフォトサロン、東京都児童会館などで個展を開く(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。