内容説明
出撃の前夜、特攻隊員の宮川軍曹は「小母ちゃん、死んだらまた小母ちゃんのところへ、ホタルになって帰ってくる」と鳥浜トメに言い残し、鹿児島県知覧基地から出撃していった。その夜、トメの家には本当に一匹のホタルが入ってきた…。大戦末期、軍の指定食堂で特攻隊員たちを親身に世話した鳥浜トメの姿を、娘の礼子が自らの体験を交えつつ語る。戦争の真実の姿がここにある。
目次
ホタル帰る・戦中篇(知覧;少年飛行兵;特攻始まる;群像;命ある限り;いまひとたびの逢ふこともがな;アリランの歌声;たとえ手は動かずとも;ホタル帰る;神々のたそがれ)
ホタル帰る・戦後篇(アメリカ兵の母;人類の母;観音像建立;日はまた沈む)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うりぼう
41
2013年7月26・27日の2日間にわたり、知覧を中心に特攻隊員の真実を学ぶ「プロレスラーSUWA選手と行く鹿児島知覧研修ツアー」に参加した。本書は、「ほたる館」で購入。隊員達は、国のため家族のため、崇高な理念を胸に突撃したことは、紛れもない事実であるが、今の若者が抱える苦悩や躊躇い、恐れを同じように持っていた。それを支えた精神に母の愛が必要であり、それを惜しみなく与えたのが、トメさん。その愛は、特攻隊員だからというものでなく、米兵だろうと犯罪者であろうと変わらない。心に傷を持った者全てへの愛。観音菩薩。2013/08/07
佳乃
35
特攻隊員の母と慕われるトメ・・・終戦後は何の因果か米軍のママと・・・けれど、トメは皆同じだと、国を超え寂しいのだと・・・トメの愛は大きい。戦争、特攻・・・それらを知らずに平和に暮らしている自分が、どんなきっかけであろうと今から知ろうとしても遅くはないだろう。そして、今の平和な日本があるのはその時代の方たちのおかげでもあります。いつか知覧を訪れてみたいです。2015/03/24
モトラッド
32
★★★特攻基地のあった知覧の地で、食堂を営む鳥浜トメさんの生涯を描きつつ、特攻とは何だったのか、更には太平洋戦争とは何だったのかを問いかける良書。彼女は、実の母のように食堂に集う隊員たちの世話を焼いた。出撃前夜の昭和20年6月5日「死んだらホタルになって帰ってくる」と言い残して、沖縄の空で亡くなった宮川軍曹。そして本当にその夜(トメさんの営む)富屋食堂に、一匹のホタルが舞い込んで来た逸話は、あまりに有名。特攻平和会館を訪ね拝見した遺影と遺書の実物、あと2ヵ月余で終戦という時期に出撃した方も多く胸が痛んだ。2023/07/13
馨
29
知覧に、記念館に、一度行ってみたいと強く思いました。特攻の歴史や事実は、知れば知るほどまさかと思うような悲しいことばかりですが、目を背けてはいけないと思います。特攻隊員の手紙(遺書)もいくつか読みましたが、私よりうんと若い子たちが犠牲になり国や家族を思い守るために散華したことを思うと、涙が止まりません。2012/06/30
北本 亜嵐
27
文章からはトメさんや子供たち、若き特攻兵の心の交流が目に浮かぶようで、何度も目頭が熱くなった。戦前は「特攻の母」と言われた彼女だが、戦後は心無い噂にもひるむことなく、米兵や肩身の狭い親子や犯罪者までも自らの懐に招き入れる姿は「無償の愛」だと思う。「特攻」に関しては様々な誤解がされているようだが、国に多くの若い命が国に殉じたのは事実。「魂がふるえる」そんな一冊。2015/10/19