内容説明
海岸のカフェで、見知らぬ若い女から高価な指輪を預けられた女性、人生の辻褄合わせばかりしてきたと突如気づく男、なぜかいつも他人の打ち明け話を聞かされる中年女性…。奇妙なめぐり合わせが引き起こす現実のドラマと、脳裏をよぎる心象風景とが鮮やかに交錯する。さらに円熟味を増した筆で、移りゆく心象を絵画のように精巧に映し出す。深い共感を呼び起こす最新作10篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
くさてる
7
短編集。この著者の感想はみな同じ表現になってしまうのだけど、やはり、普通のひとの当たり前の生活のなかにふと起こったさざ波のようなものをその部分だけ、差し出されているような感じがする。表題作だけは、ちょっと長めだったこともあり幾分かは入り組んでいるけれど、それでもその印象は変わりない。人生は人間の数だけ存在していて、誰かと全く同じ人生を過ごす人間なんてどこにもいない。だからこそ、その生活で起きるささやかな事件はどれも特別なものに成り得るのだ。そんなことを教えてくれるような短編集でした。2014/06/10
あなた
7
高橋源一郎が衝撃を受けた作家がビーティ。カーヴァーも私淑した。アメリカ文学にはついえさった60年代幻想があり、ブローティガンはそれをジャンルを脱構築していくことで回避し、カーヴァーは労働者にも詩があることをうたうことで昇華したが、ビーティは、日常の些細なディスコミュニケーションの破片とそれでもそのぬかるみのようなところから淡くうかびあがる希望をちりばめながら日常生活を何気なくおくる何気ない人々のささやかな物語を描くことで失われたアメリカと失われつつあるアメリカを接続しようと試みている2009/07/20
34
4
久しぶりの海外文学。かなり前に買った積読本です。10話の短編集です。乾いた文章。決して大袈裟に描かれていないのに、なんだか心に残る。訳者亀井よし子さんのあとがき、「ざまざまな悩みをかかえながら、それでもみんなちゃんと生きている」という文章に同感しました。とても好きな歌手、篠原美也子さんが御自身のホームページのコラムで紹介していた本です。2012/05/23
mizzan72
1
この作家は、どっぷりとその世界に浸って繊細な比喩を受け止めてこそ、その面白さがわかるタイプだと思うのだが、今回は読書の時間が細切れにしか取れず、読み進めるのにちょっと苦労した。タイトル作が一番印象深かった。一人称で視点が唐突に変わっていくスタイルなのだが、その唐突さが巧みだ。全編を貫く透明感も心地よい。また他の作品も読みたい。2014/06/06